従業員19名の設備工事会社。3年前からブログを始め、月に4本、真面目に更新していました。書いていたのは総務担当の一人です。
記事の中身は、たとえばこうです。『当社は創業以来、お客様一人ひとりに丁寧に向き合い、高品質な施工を心がけてまいりました』。間違ったことは一つも書いていません。
3年で記事は140本を超えました。問い合わせフォームからの連絡は、その間ゼロ。書く人だけが疲れていきました。
転機は、社長が同業他社のサイトを10社並べて読んだ日です。自社の文章と、他社の文章の区別がつかなかった。
この会社がやったのは、全文の書き直しではありません。記事ごとに抽象語を一つ選び、数字に置き換えるだけ。
『丁寧な対応』を『見積もりのご依頼から提出まで、平均2営業日』に。『豊富な実績』を『築30年以上の建物の改修が、直近3年で112件』に。『迅速な対応』を『緊急の連絡は、営業時間内なら30分以内に折り返し』に。
置き換えの規則は一つだけ決めました。その場で確かめられない数字は使わない。社内の記録から出せない数字は書かない、という縛りです。
結果として、書ける数字は意外と少なかった。記録していなかったからです。ここで副次的なことが起きました。数字を書くために、記録を取り始めた。
この会社が実際に使ったのは、次の三つでした。どれも新しく調べるものではなく、社内にあるものです。
年数。創業年、その工法を扱った年数、いちばん長い取引先との付き合いの年数。『長年』を年数に変えるだけで、読む側の受け取り方が変わります。
件数。施工件数、対応した業種の数、繰り返し依頼された件数。総数より、条件を絞った件数のほうが効きます。『実績多数』より『この条件での施工が112件』のほうが、自分に当てはまるかを判断できるからです。
時間。返信までの時間、見積もりまでの日数、現場に入るまでの期間。相手がいちばん不安に思っているのは、たいてい時間です。
根拠のない数字を使わない。満足度や効果を数値で示す場合は、その根拠を社内に残しておく必要があります。書けるのは、聞かれたら出せる数字だけです。
数字を並べすぎない。一つの文章に数字が5つ入ると、今度は誰も覚えません。記事一本につき、覚えてほしい数字は一つ。
更新を止めない。『直近3年で112件』は、来年には嘘になります。数字を入れるなら、更新の担当と時期を決めてから入れる。古い数字が残っているサイトは、数字がない状態より信用を落とします。
半年後、問い合わせは月に2〜3件に増えました。件数としては地味です。変化は中身のほうでした。
連絡してくる相手が、記事に書いてあった数字を口にするようになった。『2営業日で見積もりが出ると書いてあったので』。つまり、問い合わせの前に判断が済んでいる状態で来ています。
そして書き手の負担が減りました。何を書くか悩まなくなったからです。記録を見れば書くことがある。抽象語で書いていたころは、毎回ゼロから文章をひねり出していた。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。同じ置き換えを、グループ各社の発信でやりました。
いちばん苦労したのは、文章力ではなく数字が出てこないことでした。件数も、日数も、社内の誰も把握していない。発信の問題だと思っていたものが、記録の問題だった。
だから私たちは、発信の改善を頼まれたときに、まず何を数えているかを聞きます。数えているものがなければ、書ける数字もありません。数えることと書くことは、同じ一つの作業です。そして数え始めると、発信だけでなく現場の会話も具体的になっていきます。
BEACONで伴走する場合、記事の書き方を教えるところから入りません。いまの発信から抽象語を抜き出し、そのうち社内の記録で埋められるものを仕分けるところから始めます。埋められないものは、数え始める対象になります。
そのうえで、記事一本につき数字を一つという運用、更新担当と更新時期の決定、根拠資料の保管まで。書き続ける仕組みより先に、数え続ける仕組みのほうを整えます。
まずは無料の情報発信診断で、いま自社の強みがどこで止まっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に数える一項目を一緒に決めます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はいずれも説明のための仮設例です。実績や効果を数値で表示する場合は、根拠資料の保管および景品表示法をはじめとする関係法令上の留意点について、個別にご確認ください。