従業員35名の設備工事会社。ここ半年、相見積もりでの勝率が落ちていました。社長は価格が高いのだろうと考え、原価の見直しに着手しようとしていました。
ところが失注案件を営業に一件ずつ確認すると、様子が違いました。『金額の話になる前に、他社が先に出していた』という案件がいくつもあった。実際、客先から『もう決めてしまいました』と言われた例が複数あります。
社長は最初、営業の動きが遅いのだと思いました。そこで見積依頼を受けてから提出するまでの時間を、1か月分だけ記録させました。
1か月分の記録を集計すると、平均で3.8日かかっていました。その内訳がはっきりしていました。
営業が図面を見て積算する作業が約1時間。上長の確認が半日。そして部長承認の待ちが2日以上。作業時間は全体の1割にも届いていませんでした。
部長は現場に出ていることが多く、社内に戻るのが夕方。承認は翌朝になります。さらに部長が出張の週は、そこで丸2日止まる。誰も怠けていないのに、案件は動かない。
そして決定的だったのが、承認が必要な金額の基準でした。50万円以上は部長承認。この基準が決まったのは10年以上前で、当時は50万円が大きな案件だった。いまはほとんどの案件が50万円を超えます。つまり実質的に、全件が部長を経由していました。
承認プロセスの改善というと、段数を減らす話になりがちです。3段階を2段階に、といった具合に。もちろん効きますが、この会社の場合、問題はそこではありませんでした。
段数は2段階しかない。それでも詰まっていたのは、2段目を通る案件が多すぎたからです。基準を100万円に上げるだけで、部長を通る案件は半分以下になります。段数はそのままで、待ちだけが消える。
金額基準は、物価と単価が動けば実質的に厳しくなっていきます。決めた時点では妥当でも、放っておけば毎年少しずつ渋滞が増える。見直しの機会を作らない限り、静かに悪化します。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。承認の設計は、どのグループ会社でも一度は揉める論点でした。
やってみて分かったのは、承認を厳しくしても、事故は思ったほど減らないということです。金額の大きい案件で問題が起きるのは事実ですが、問題の原因は承認の有無ではなく、判断材料が足りないことでした。承認者が3秒で判を押すなら、そのステップに検査の機能はありません。形式だけの承認は、待ち時間だけを生みます。
逆に効いたのは、承認者が実際に確認する項目を3つに絞って明示したことでした。原価率、納期の無理、支払条件。この3点だけ見ると決めたら、承認は数分で終わるようになりました。何を見るか決まっていない承認は、必ず後回しにされます。
そして忘れられがちなのが、待たされている側のコストです。営業は3日間、その案件を頭に置いたまま他の仕事をしています。客先には『社内で確認中です』と伝え続ける。この時間は誰の付加価値にもなりません。承認プロセスの見直しは、管理の話ではなく速度の話です。
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※本文中の会社・人物・数値は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。特定の企業を指すものではありません。手順は、BEYOND Holdings が複数の実業を運営する中で用いている一般的な整理であり、成果を保証するものではありません。