← GEARトップへ
#業務効率化#数字・見える化#DX・AI
Operation Column · 2026.10.04

在庫の数が三つあって、
どれも違っていた

同じ在庫の数が、基幹システムとExcelと現場のホワイトボードで違う。
会議は毎回『どれが正しいんですか』から始まり、本題に入る前に時間が溶ける。
直すのは精度ではありません。どれを正本にするかを決めていないことです。

1. 【before】三つの数字が、毎週会議に出てきた

従業員31名の部品商社。主力商品の在庫数が、三か所に存在していました。

①基幹システムの在庫数。受発注の処理に連動して動きます。②倉庫担当が管理するExcel。入出庫を手で打っています。③現場のホワイトボード。出荷担当がその日の動きを書いています。

三つとも、少しずつ違っていました。原因もはっきりしていました。システムは伝票の入力タイミングで遅れ、Excelは打ち間違いがあり、ホワイトボードは当日分だけが正しい。

会議では、数字が出るたびに『それはシステムの数字ですか』という確認が入りました。そして毎回、三つを突き合わせる作業が始まります。

社長が最初に出した指示は『数字を合わせろ』でした。これが半年、進みませんでした。

01合わせろ、では終わらない
三つを一致させる作業には終わりがありません。合わせた翌日にまたずれるからです。決めるべきは一致ではなく順位です。ポイント:精度を上げる前に、どれを信じるかを決める

2. 何が起きていたのか

この会社が取り違えていたのは、精度の問題と権威の問題でした。

三つの数字は、それぞれ別の目的のために作られていました。システムは請求と発注のため。Excelは倉庫の作業指示のため。ホワイトボードは当日の積み込みのため。目的が違うので、ずれるのは当然です。

問題は、どの目的のときにどれを見るかが決まっていなかったことです。だから全員が自分の手元の数字を持ち寄り、会議で突き合わせていました。

そして突き合わせる作業には、もう一つ悪い効果がありました。どれも信じられなくなる。三つとも違うと分かっている数字を、誰も判断の根拠にしなくなります。

3. 【turn】正本を一つ決め、残りに役割を書いた

この会社がやったのは三段階です。

①正本をシステムの在庫数に決めた。理由は精度ではありません。請求と発注につながっていて、間違えたときに外部に影響が出るからです。外に出る数字を正本にする、という決め方をしました。

②残り二つに役割を明記した。Excelは『倉庫内の作業指示用』、ホワイトボードは『当日の積み込み確認用』。どちらも在庫数の根拠には使わないと紙に書きました。

③ずれを見つけたときの手順を決めた。合わせるのではなく、システム側を直す。Excelやホワイトボードの数字が正しいと分かった場合も、修正するのはシステムです。

この三つ目が要点でした。正本を決めるとは、直す先を一つにすることと同じです。

4. 決めたあとに必ず出る抵抗

二つ出ました。

一つ目、『システムは古いから当てにならない』。倉庫担当からの反対です。実際、入力の遅れで当日分はずれていました。

処理は単純でした。正本は『前日締め時点の数』と定義した。当日の動きは正本に含めない。どの時点の数字かを定義に入れると、ずれの大半が消えます。

二つ目、Excelがなくならなかった。やめさせようとしたが、倉庫の作業には必要でした。

ここは残しました。やめさせるのではなく、在庫数の根拠に使わないと決めるだけ。帳票を減らすことが目的ではありません。

02正本には、どの時点の数字かを定義に入れる
数そのものだけを決めると、当日分のずれで信用を失います。前日締め時点、月末時点といった時点の定義が要ります。ポイント:正しい数字ではなく、いつの数字かを決める

5. 【after】会議の最初の十分が消えた

三か月後、会議で『それはどの数字ですか』という確認がなくなりました。議題に入るまでの十分が、そのまま消えたということです。

そして副産物がありました。システムの入力の遅れが自然に減った。正本として扱われるようになったので、遅れると困るのが自分たちになったからです。精度を上げる指示は出していません。

社長の言葉はこうでした。『合わせろと言っていた半年で、何も変わらなかった』。

6. 他の数字にも、同じことが起きている

この会社は、在庫のあとに同じ作業を三つの数字で行いました。受注残、売掛の残高、稼働可能な人員数。

どれも複数の場所に存在していました。そして受注残がいちばんひどかった。営業の手帳、販売管理システム、製造の生産計画表。三つが違い、しかも誰も不思議に思っていませんでした。

正本を決める作業は、一つの数字に半日もかかりません。対象を一度に広げないことだけが条件です。この会社は一か月に一つのペースで進めました。

7. 実業の当事者として言えること

BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。この整理は各社でやりました。

私たちが使っている決め方の基準は一つです。外に出る数字を正本にする。請求書に載る数字、申告に使う数字、取引先に報告する数字。間違えたときに外部に影響が出るものは、放っておいても精度が維持されます。

逆に、社内用の数字を正本にすると維持されません。間違えても誰も困らないからです。

そして一つ注意点があります。帳簿書類の保存や棚卸資産の評価については、関係法令にもとづく取扱いがあります。社内の運用として正本を決めることと、法令上の帳簿の扱いは別の話です。ここは顧問税理士にご確認ください。

60秒・無料診断

その数字、どこを見れば正しいと決まっていますか?

60秒の無料診断で、いま現場のどこに手間が溜まっているかを確かめられます。

▶ 業務ムダ診断をはじめる 無料で相談する

8. GEARは、一つの数字から始める

GEARで伴走する場合、システムの統合から入りません。いま会議で確認が入る数字を一つ選び、どこに何個存在するかを数えるところから始めます。多くの会社で、三か所以上出てきます。

そのうえで、外に出る数字を正本にする基準、時点の定義、残す帳票の役割の明記、ずれたときに直す先の決定まで。一か月に一つのペースで広げていきます。帳簿や評価に関する法令上の取扱いは、顧問税理士への確認とセットで進めてください。

まずは無料の業務ムダ診断で、いま現場のどこに手間が溜まっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に正本を決める一つを一緒に選びます。

※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はいずれも説明のための仮設例です。帳簿書類の保存および棚卸資産の評価に関する取扱いは、関係法令にもとづき顧問税理士にご確認ください。