従業員34名の加工業。3年かけて改善活動を続けてきた会社です。日報の様式を整え、チェックリストを作り、週次の進捗報告を始めた。どれも正しい施策で、実際に不良は減りました。
それでも現場の残業は減りません。理由は単純で、改善のたびに作業が一つずつ足されていたからです。やめた作業は3年間で一つもありませんでした。
決定的だったのは、ある月の会議で出た一言です。『この週次報告、誰が読んでいるんですか』。誰も答えられませんでした。3年前に始めて、書く人だけが残っていた。
この会社が始めたのは、大がかりな棚卸しではありません。毎月30分、やめる仕事を一つだけ決める会議です。
ルールは四つにしました。①候補は現場から出す。②一回の会議で決めるのは一つだけ。③やめるのではなく、まず一か月止める。④一か月後に、困ったかどうかだけを確認する。
三つ目が効きました。廃止を決めるのは怖いが、一か月止めるだけなら決められる。会議が止まらなくなったのは、この言い換えのおかげです。
最初に止めたのが、例の週次報告でした。一か月後、困った人はゼロ。そのまま廃止になりました。
候補出しで使ったのは、三つの問いです。現場に配った紙は、この三行だけでした。
『誰が読んでいるか、名前で言えますか』。読み手を名指しできない報告書・記録・集計は、ほぼ候補です。
『いつ、なぜ始めたか知っていますか』。始めた理由を誰も知らない作業は、当時の事情が消えている可能性が高い。事情が消えても作業だけが残るのが、長く続いている会社の典型です。
『やらなかったら、何分後に誰が困りますか』。ここに具体的な名前と時間が出てこない仕事は、止めても波風が立ちません。逆に、即座に名前が出るものは止めてはいけない仕事です。
この三問で出た候補を並べ、止めやすい順ではなく、時間を食っている順に並べ替えて上から着手しました。
やめる会議で最初にやったのは、対象外の線引きでした。ここを曖昧にすると、一度の事故で会議そのものが潰れます。
対象外にしたのは三つ。法令や契約で義務づけられているもの、安全に直結するもの、顧客に約束しているもの。この三つは候補に挙げない、と先に宣言しました。
そのうえで、止めた業務には必ず戻す条件を書いています。『月末の締めで数字が合わなくなったら戻す』のように、誰が見ても判定できる条件にする。条件を書いていないと、なんとなく不安だという理由で戻ってきます。
一年で、止めた仕事は12件。うち復活したのは2件でした。10件はそのまま消えています。
本当の変化は時間の削減より、会議の雰囲気のほうでした。『これ、やめませんか』が言いやすくなった。それまでは、誰かが決めた仕事を否定するように聞こえるので言い出せなかった。月例の議題として枠があると、個人の批判ではなくなります。
そして復活した2件には共通点がありました。止めた影響が、一か月では出ない仕事だった。四半期や決算のタイミングで効いてくるものは、一か月の停止テストでは判定できません。周期の長い仕事は、停止期間を周期に合わせる——これが一年で得た修正点です。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。同じことをグループ内でも回しています。
私たちの失敗は、最初に候補を50件集めてしまったことでした。全部を検討しようとして、優先順位の議論に二か月かかり、結局一つも止められなかった。一回一件に絞ってから動き出しました。
もう一つ気づいたのは、やめる会議は、人手不足への一番安い打ち手だということです。採用にも投資にもお金がかかりますが、やめることには費用がかからない。しかも効果は翌月から出ます。増やす施策を検討する前に、まず一つ止めてみる。順番はこちらが先です。
GEARで伴走する場合、業務の全体棚卸しから入ることはしません。月例30分の枠を作り、三つの問いを配り、一件目を止めるところまでを一緒にやります。二件目以降は現場だけで回るのが理想です。
設計で時間をかけるのは、対象外の線引きと戻す条件の書き方です。ここが甘いと、一件目の不安で会議ごと消えます。止めることより、止め続けられる形のほうに手をかけます。
まずは無料の業務ムダ診断で、いま現場のどこに止められる仕事が溜まっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に止める一件を一緒に選びます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はいずれも説明のための仮設例です。法令・契約・許認可にもとづき実施が義務づけられている業務は停止テストの対象外であり、対象範囲の判断は必ず個別にご確認ください。