従業員33名の食品製造会社。四つの商品群を持っており、商品別の採算を出すことにしました。
売上原価は商品ごとに分かっていました。問題は、工場の家賃、管理部門の人件費、共用設備の減価償却です。会議で議論した結果、売上比で配ることに決まりました。公平に見えたからです。
出てきた表で、いちばん売上の大きいA群が営業赤字になりました。売上比で配っているので、売上の大きいA群にいちばん多く配られたからです。
社長は真剣に、A群の縮小を検討し始めました。そこで工場長が言いました。『A群をやめたら、家賃は誰が払うんですか』。
この会社が混同していたのは、二つの別の問いでした。
問い①:この商品は、固定費の回収にいくら貢献しているか。
問い②:全社として、いくら売れば黒字になるか。
①に答えるには、その商品に直接かかる費用だけを引きます。材料、外注、その商品専用の作業時間。残った金額が、固定費の回収に回る分です。
②に答えるには固定費の総額が必要ですが、それを商品に割り振る必要はありません。全社の固定費を、各商品の貢献の合計で回収できているかを見るだけです。
配賦は、この二つを混ぜる作業でした。①の答えを出すために②の数字を持ち込んだので、判断できなくなったのです。
この会社がやり直した手順は四つです。
①商品ごとに、その商品がなくなれば消える費用だけを集める。材料、外注、専用の包材、その商品のためだけに動く時間の人件費。判断の基準は『やめたら本当に出なくなるか』です。
②売上から①を引く。これが固定費の回収に回る金額です。
③四つの商品群を、この金額の大きい順に並べる。率ではなく金額で並べます。
④全社の固定費と比べる。合計が固定費を上回っていれば黒字、足りなければその差が赤字です。
並べ直した結果、A群が最大の貢献をしていました。率は低いが金額が大きい。やめれば固定費の回収が一気に細るという、工場長の指摘どおりの構造でした。
この会社は途中でもう一度つまずいています。金額ではなく率で並べたときです。
率で見ると、少量で率の高いD群が一位になります。ところがD群は年間の数量が小さく、金額では最下位でした。率を根拠にD群へ営業を寄せると、全体の回収額が落ちます。
率が意味を持つのは、同じ制約を取り合っているときです。同じ設備や同じ人の時間を使う商品どうしなら、その制約一単位あたりの貢献額で比べます。時間あたり、設備稼働あたり。
制約を共有していない商品を率で比べても、順位に意味はありません。
この会社が最後に出したのが、商品ごとの必要数量です。
全社の固定費のうち、その商品に期待する回収額を方針として決める。配賦ではなく、経営判断として置きます。そのうえで、一単位あたりの貢献額で割れば必要数量が出ます。
この数字が現場に渡ってから、変化がありました。値引きの判断が変わったのです。一単位あたりの貢献額が分かっているので、いくら下げたら何個多く売る必要があるかを、その場で言えるようになりました。
配賦の議論に三か月かけていたときには、一度も出てこなかった会話です。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。商品別採算は各社で出しています。
私たちが決めているのは、配賦を議論の入口にしないということです。直接費だけで並べた表を先に作り、それを見てから共通費の話をする。順番を守ると、配賦の議論そのものが短くなります。多くの場合、結論が変わらないと分かるからです。
ただし、配賦がまったく不要というわけではありません。値決めの根拠として社外に説明する場合や、部門ごとに責任を持たせる設計をする場合には必要になります。使う目的が決まっているときだけやる、という整理にしています。
もう一つ。直接費に何を入れるかで、現場の議論が深くなりました。『この段取り時間はこの商品のためだけか』を一つずつ確かめる作業は、原価の話であると同時に工程の話です。表を作る過程でムダが見つかったことが、何度もあります。原価の区分や処理は会社ごとに違うので、顧問税理士と会計事務所への確認とセットで進めています。
LENSで伴走する場合、配賦基準の設計から入りません。商品ごとに、やめたら消える費用だけを集めて並べるところから始めます。この表が出ると、配賦の議論に何時間もかける必要がなくなります。
そのうえで、金額で並べる順位、制約を共有する商品だけ単位あたりで比べる方法、商品ごとの必要数量の置き方まで。値引きの判断がその場でできる形にするのが目標です。原価の区分については顧問税理士および会計事務所への確認とセットで進めます。
まずは無料の意思決定スピード診断で、いま見ている数字が判断につながっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に並べる商品群を一緒に選びます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はいずれも説明のための仮設例です。原価の区分および配賦の方法は会社ごとに異なり、財務会計上の処理とは扱いが異なる場合があります。自社での適用にあたっては顧問税理士および会計事務所にご確認ください。