従業員26名の金属加工会社。取引先の支払条件は、主要先で月末締め翌月末払い。契約上は明確です。
それでも、月々の入金額が読めませんでした。経理担当が『今月は少ない』と言い、翌月は多い。売上の増減とは連動していませんでした。
社長の見立ては『取引先が払いを遅らせている』でした。ところが入金記録を調べると、期日はすべて守られていました。
分からないまま、資金繰り表は毎月外れ続けました。
この会社がやったのは、案件ごとに四つの日付を記録することでした。
①受注日 ②納品日 ③請求書を発行した日 ④入金日。
三か月分を並べて、区間ごとの日数を出しました。出てきたのは次のような姿でした。
受注から納品までは案件によって幅がある。これは仕事の内容によるので当然です。請求から入金まではほぼ一定でした。支払条件どおりです。
問題は納品から請求までの区間でした。短い案件は2日、長い案件は34日かかっていました。
原因は二つありました。
①納品日が締め日のどちら側に落ちたか。月末締めなので、月初に納品すると当月締めに入り翌月末入金。ところが月末の数日に納品すると、処理が間に合わず翌月締めに回り、入金は翌々月末になっていました。
同じ条件、同じ相手でも、納品日が数日違うだけで入金が約一か月違う。これが揺れの正体でした。
②請求書の発行が遅れる案件があった。検収の確認が終わらない、追加作業の金額が確定しない。自社側の確認待ちで、締めに乗り損ねていました。
どちらも、支払条件とは無関係です。自社の工程の問題でした。
この会社が整理した結論です。
請求から入金までは動かせません。支払条件の交渉は別の話として残しますが、短期では動きません。
納品から請求までは、ほぼ全部自社の裁量です。ここに29日の幅があったということは、交渉なしで短縮できる余地が29日あったということです。
そして受注から納品までは、短縮すると入金も早まります。ただしこちらは生産能力の話なので、すぐには動きません。
順番は明らかでした。真ん中の区間から手を入れる。
①月末の数日に納品が集まらないよう、工程を前に寄せた。締め日の三営業日前を目安にしました。間に合わない場合は、相手に相談して月初の納品に回す。遅らせたほうが入金が早い、という逆転が起きるからです。
②請求書の発行を納品と同時にした。それまでは月次でまとめて発行していました。追加作業の金額が未確定の場合は、確定分だけ先に請求し、残りを別途にすると決めました。
③締めに乗らなかった案件を毎月数えた。件数と金額を一行で記録する。数えると、翌月から減りました。
三か月後、納品から請求までの平均は2日になりました。幅も小さくなりました。
効果は入金の早さより、読めるようになったことでした。納品日が決まれば入金月が決まる。資金繰り表の精度が上がり、借入のタイミングを前倒しで相談できるようになりました。
社長の言葉はこうでした。『相手のせいだと思っていた一か月が、自社の中にあった』。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。この四つの日付の記録は各社で取っています。
私たちが見てきた中で、納品から請求までが長い会社の原因は、ほぼ一つに集約されます。請求を月次でまとめて処理していることです。効率的に見えますが、締め日の前に出せた分まで一か月待たせています。
もう一つ。この記録は、値上げ交渉の材料にもなりました。支払条件の見直しを相談するとき、自社側の区間を先に短縮してあると話が通りやすい。自分の工程を直してから相手の条件を相談する。順番として、こちらが筋が通ります。支払条件の変更や請求の取扱いは、契約内容と関係法令に照らしてご確認ください。
LENSで伴走する場合、資金繰り表の作り直しから入りません。直近三か月の案件について、受注・納品・請求・入金の四つの日付を並べるところから始めます。既存の伝票と入金記録から復元できます。
そのうえで、区間ごとの日数と幅を出し、動かせる区間を特定する。締めに乗らなかった案件を毎月数える運用まで置けば、あとは自社で回ります。
まずは無料の意思決定スピード診断で、いま見ている数字が判断につながっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に測る三か月分を一緒に決めます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の日数および金額はいずれも説明のための仮設例です。支払条件の変更や請求の取扱いについては、既存の契約内容および関係法令に照らして個別にご確認ください。