一つ目、差が見えなくなります。予算を見込みに合わせて下げれば、当然ながら差はゼロに近づきます。差がゼロの表からは、何も読み取れません。
二つ目、過去が消えます。当初いくらでやると決めたのかが記録から失われます。翌期に振り返ろうとしたとき、何を外したのかを検証する材料がありません。
三つ目、目標が信じられなくなります。届かなければ下げてもらえると分かった組織では、期初の数字は宣言ではなく目安になります。一度でも下げると、次の期の予算の重みが変わります。
それでも会社が予算を書き換えるのは、置き場所がないからです。見込みを書く欄がないから、予算の欄に書いてしまう。
必要な列は三つです。予算・実績・見込み。
予算は期初に決めた数字で、期中は一切動かしません。実績は確定した数字。そして見込みは、今日時点で期末にどこへ着地しそうかの予測です。見込みだけが毎月動きます。
この三列にすると、二種類の差が別々に読めるようになります。予算と見込みの差は、意思と現実のずれ。見込みと実績の差は、予測の精度です。
前者が大きいなら打ち手の問題、後者が大きいなら見立ての問題。一つの差しか持たない会社は、この二つを区別できません。
列を分けたら、用途も分けます。ここを曖昧にすると、結局また混ざります。
月次会議で議論するのは、見込みです。予算との差を叱っても、過ぎた月は戻りません。見るべきは残りの月で何をするかであり、それは見込みの数字の上でしか議論できません。
評価と振り返りに使うのは、予算です。期末に、決めたことに対してどうだったかを見る。ここで初めて予算の出番が来ます。
そして見込みの数字で評価してはいけません。評価対象になった瞬間、見込みは予測ではなく願望になります。見込みの価値は、正直に下げられることにあります。
見込みの精度を上げようとする前に、確度の違うものを分けて持ちます。
①受注済み・契約済みの分。これは予測ではなく、ほぼ確定です。
②見込み案件の分。ここに確度をかけます。細かい段階は要りません。ほぼ決まり・五分・薄いの三段階で十分です。
この二つを分けておくと、見込みが動いたときにどちらが動いたのかが分かります。①が減ったならキャンセルや納期ずれ、②が減ったなら商談の失速。原因が違えば打ち手も違います。
そして見込みには必ず日付を入れて保存します。上書きせず、月ごとに版を残す。三か月分並べれば、自社の見込みが甘い方向に出るのか辛い方向に出るのかが見えます。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。予算の書き換えは、私たちもやっていました。
やめた直接のきっかけは、期末の振り返りが成立しなくなったことです。何度も修正した結果、最後の予算は実績とほぼ同じ数字になっていました。達成率は99%。それで何が分かるのか、誰も説明できませんでした。
三列に変えたあと、会議の中身が変わりました。『予算に対してどうか』から『残り四か月で見込みをどこまで動かせるか』に議題が移った。過去の話が減り、残り期間の話が増えたということです。
もう一つ。予算を動かさないと決めたことで、期初の予算作りが真剣になりました。あとで直せないと分かっているからです。予実管理の質は、期中の運用より期初の決め方に効いてきます。
LENSで伴走する場合、新しい管理ツールの導入から入りません。いま使っている表に見込みの列があるか、予算が期中に書き換わっていないかを確かめるところから始めます。多くの会社で、この二点を直すだけで会議の中身が変わります。
そのうえで、確度の三段階の決め方、見込みを月ごとに版で残す方法、会議と評価の用途の切り分けまで。三か月分の版が溜まったところで、自社の見込みの癖を一緒に見ます。
まずは無料の意思決定スピード診断で、いま見ている数字が判断につながっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に足す一列を一緒に決めます。
※本記事の管理表の構成および手順は、中小企業の実務で用いられる一般的な整理であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はすべて説明のための仮設例です。管理会計上の区分や集計方法は会社ごとに異なるため、自社での適用にあたっては顧問税理士および会計事務所にご確認ください。