いちばん多いのが、外注を減らして内製に戻したケースです。外注費として出ていた金額が人件費に移るので、人件費率は当然上がります。会社としての支出はむしろ減っているのに、比率だけを見れば悪化します。
次に多いのが、売上構成が変わったケース。仕入額の大きい商品の販売が減り、手離れの悪い受注生産が増えれば、売上は落ちても粗利は落ちない。分母だけが小さくなって、人件費率は跳ね上がります。
三つ目は、値下げに応じたケースです。売上が減れば分母が減る。人件費は減らないので比率は上がります。この場合は実際に悪化しているのですが、悪化しているのは人件費ではなく価格です。人件費率という名前の指標を見て、人件費を疑ってしまうと打ち手を間違えます。
使うのは人件費 ÷ 粗利。一般に労働分配率と呼ばれる比率です。
この置き換えで何が変わるか。仕入や外注の大小に振り回されなくなります。粗利は、自社が外から買ってきたものを差し引いたあとに残る、自分たちが生んだ取り分です。その取り分のうち何割を人に配ったか——それが労働分配率です。外注を内製に戻しても、粗利側も人件費側も同時に動くので、比率は暴れません。
同じ業種でも、仕入を自社で抱える会社と持たない会社では、売上人件費率は倍近く違います。業界平均と比べる意味がほとんどないのはそのためです。粗利を分母にすると、比較の土俵がようやく揃います。
そして比べる相手は、他社よりまず去年の自社です。同じ会社の同じ定義で並べたときの上下だけが、判断に使えます。
労働分配率が上がったとき、理由は次のどれかです。分けないまま『人件費が重い』と結論すると、いちばん効く手を打ち損ねます。
一つ目、粗利が縮んだ。分子は動いていないのに比率が上がった型です。原因は値下げか、原価上昇の据え置きか、粗利の薄い仕事の増加。打ち手は価格と仕事の選別であって、人員ではありません。
二つ目、人件費が増えた。賃上げ、残業、増員。ここは中身の確認が要ります。残業代で増えたなら業務量の問題、基本給で増えたなら意図した投資です。同じ増加でも意味が正反対です。
三つ目、先に採った。売上が立つ前に人を入れれば、比率は必ず一度上がります。これは悪化ではなく予定通りの一時的な悪化で、問題は上がったことではなく、いつまでに戻す約束にしていたかです。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。人件費率の会話は、毎月どこかのグループ会社で起きています。
私たちが経験した失敗は、比率が高いという一点だけで採用を止めたことでした。そのときの上昇は、粗利の薄い受注が増えたことによるもので、人が多すぎたわけではなかった。採用を止めた結果、粗利の厚い仕事を受ける余力まで削ってしまいました。分解していれば、止めるべきは採用ではなく受注の選別だと分かったはずです。
逆に、意図して上げたこともあります。人を先に入れ、半年で戻す前提で動かした。戻す期限を先に決めていたので、途中で不安にならずに済みました。数字が同じでも、決めてあるかどうかで社内の空気がまったく変わります。
①分母を粗利に固定する。売上人件費率は補助として残しても構いませんが、判断に使う主指標は一つに決めます。
②人件費の定義を書き残す。役員報酬、法定福利費、派遣費用、外注のうち人に近いもの。どこまで含めるかを一度決めて、毎月同じ定義で拾います。定義が揺れる指標は、推移が読めません。
③24か月を一本の折れ線にする。月次の一点では季節性と区別がつきません。二期分を並べて、はじめて傾向が見えます。
④動いたら、三つのどれかに割り当てる。前節の分類を月次会議の固定議題にします。所要は5分で足ります。割り当てられない月があるなら、それは数字の粒度が足りていない合図です。
LENSで伴走する場合、最初にやるのは新しい指標を増やすことではなく、いま見ている比率の分母を確かめることです。そのうえで人件費の定義を一枚に固定し、24か月の推移を出し、動いた月に理由を割り当てる型を月次会議に置きます。
ダッシュボードを作ることが目的ではありません。比率が動いた翌月に、誰かが具体的な質問をしている——そこまでいって、はじめて指標が経営に効きます。
まずは無料の意思決定スピード診断で、いまの数字が判断に使える形になっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に定義を固定する一項目を一緒に選びます。
※本記事の計算式および比率の扱いは、中小企業の実務で一般的に用いられる整理にもとづく一般論です。人件費・粗利の定義は会計処理や業種によって異なり、自社の数値をどう区分するかは顧問税理士および会計事務所にご確認ください。本文中の数値例は説明のための仮設例であり、特定の企業の実績ではありません。