従業員21名の金属加工会社。サイトを作り直すにあたって、強みを言葉にしようとしていました。
会議を三回やりました。出てきたのは『小回りが利く』『納期に柔軟』『技術力がある』。社長自身が、どれも他社が言っていると分かっていました。
行き詰まった末に、社長が議題を変えます。『うちができないことを挙げてみよう』。
すると、十分で十数個出ました。しかも全員の答えが一致していました。できないことのほうが、全員の認識が揃っていたのです。
出てきた十数個を見て、社長が気づいたことがあります。できない理由が、どれも同じ方向を指していた。
この会社は、少量で精度が要る加工に設備と人を寄せてきました。だから大量生産ができない。だから単純な形状では価格が合わない。だから短納期で数をこなす仕事が取れない。
できないことは、何かに寄せてきた結果でした。弱みを並べると、寄せてきた方向が見えます。
一方、強みを直接言葉にしようとすると抽象語になります。理由は単純で、自社にとって当たり前になっていて、比較の対象がないからです。できないことには比較があります。
十数個を全部は書きません。この会社が選んだ基準は三つです。
①問い合わせが実際に来て、断っているもの。来ない依頼を書く意味はありません。
②理由が自社の特化から説明できるもの。単に設備が古いからできない、という項目は外しました。これは弱みであって、特化の裏返しではありません。
③書いても他に行き先があるもの。相手が困るだけの書き方にしない。
残ったのは、月産数千個を超える量産、公差が緩く形状が単純な部品、翌日納品が条件の仕事の三つでした。
書き方はこうしました。『当社は少量で公差の厳しい加工に設備を寄せています。そのため、次の三つは承っていません』。理由を先に、断りを後に置いています。
意図して外した項目が二つあります。
①価格に関すること。『安い仕事は受けません』は、相手の値踏みに読めます。価格は条件ではなく態度の問題として伝わるので、ここには書きません。
②人や体制の不足。『人が足りないので対応できません』は、特化の説明になりません。一時的な状態を公開すると、改善したときに古い情報になります。
そして、効果や優位性を断定する表現も避けました。表示については関係法令と自社の契約条件に照らした確認が必要です。
三か月で、問い合わせ件数は二割ほど減りました。減ったのは、量産や短納期の相談です。
一方で、残った問い合わせの中身が変わりました。図面を添えて、公差を明記して連絡が来るようになった。『少量で精度が要る』という一文を読んで、自分の案件が合うと判断してから来ているからです。
そして、予想していなかったことが起きました。断った相手から、別の案件で連絡が来た。量産は他社に出し、試作だけこちらに回す、という使い分けが生まれたのです。
社長の言葉はこうでした。『断る理由を書いたら、使い分けてもらえるようになった』。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。この作業は各社でやりました。
分かったのは、できないことを書く作業が、設備投資の判断材料にもなることでした。三つ書いてみて、うち一つは『取りたいができない』ものだった。残る二つは、取る気がない仕事です。この区別がつくと、次に何を増やすかの議論が具体的になります。
失敗したのは、項目を五つ以上書いたときです。読む側には、できないことが多い会社に見えました。三つが上限でした。
もう一つ。社内の反応が、想像と逆だった。弱みを公開することに現場が抵抗すると思っていたら、むしろ歓迎されました。断る根拠が会社の言葉になったからです。それまでは、断るたびに個人が悪者になっていました。
MAGNETで伴走する場合、強みを探す会議から入りません。できないことを十分で書き出すところから始めます。認識が揃っている側から手をつけるほうが速いからです。
そのうえで、三つに絞る基準、理由を先に置く書き方、書かない項目の線引きまで。『取りたいができない』項目は、次の投資の議題として別に残します。表示については関係法令の確認とセットで進めてください。
まずは無料の差別化診断で、いま自社の輪郭がどれくらい伝わっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に書く三つを一緒に選びます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はいずれも説明のための仮設例です。対応範囲や能力に関する表示については、景品表示法をはじめとする関係法令および自社の契約条件に照らして個別にご確認ください。