創業48年、従業員32名の製造業。3年前に長男が社長を継ぎ、先代は会長として週に2〜3日出社しています。株式の大半は、まだ会長が持っています。
新社長は、採算の合わない小口受注を絞る方針を決めました。数字を並べ、幹部会議で説明し、全員が納得したうえでの決定です。ところが数日後、会長が古い取引先から電話を受けます。「昔からの付き合いだ。あそこの仕事は続けろ」。方針は、その一言で元に戻りました。
問題は、方針が変わったこと自体ではありません。変わった理由が社員に説明されなかったことです。幹部は「では、あの会議は何だったのか」と思い、現場は「社長に言っても、会長がひっくり返す」と学習しました。この日から、新社長への相談件数が目に見えて減りました。
会長が間違っていたわけではありません。長年の取引を守るという判断には、数字に表れない合理性があることも多い。新社長の判断も正しい。両方の判断が正しくても、通路が二本あると組織は壊れます。
同族企業では、この二本目の通路が家の中にあります。夕食の席、法事、親族の集まり。会社の会議室を経由せずに経営判断が動く経路が存在し、しかも社員にはその存在が見えません。見えないから、決定の理由も追えない。
さらに厄介なのは、所有と経営が分かれていないことです。株を持つ人が現場に口を出せる構造では、役職上の決裁権は名目になります。社員はそれを本能的に見抜きます。
この会社は、会長から権限を取り上げたわけではありません。決めていい領域を書き、決定が成立する場所を決め、覆すなら説明する。それだけです。半年ほどで、新社長への相談は戻り始めました。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。同族で回っている会社とも日常的に組んでいるので、この構造の難しさはよく分かります。家族だから話せないことがあるというのは、外の人間が思う以上に深い。取引先には言えることが、父親には言えない。
だからこそ、感情の話にせず紙にすることをおすすめします。役割分担も、決定の場所も、書いてしまえば人格の否定ではなく運用の話になります。国が検討会を立てて論点を整理しているように、親族内承継でつまずくのは個々の家の問題ではなく、構造の問題です。構造の問題は、構造で直せます。
理念の言語化・共有・浸透・運用の4観点から、旗が判断の場面で使われているかをレーダーで特定します。登録不要・その場で結果。
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※背景データは、中小企業庁が2025年6月に中小企業の親族内承継に関する検討会を設置し、2025年12月12日に同検討会の中間とりまとめを公表したこと=経済産業省・中小企業庁の公表を参照しました。本文中の会社・人物・数字は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。