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#経営理念#意思決定#人材育成
Management Column · 2026.08.19

理念を作り直す前に、
額縁の社是を訳してみた(想定事例)

事務所の壁に、先代が掲げた社是が額縁で残っている。意味は分かる。ただしいまの判断に使われたことは一度もない。代替わりした中小企業で、よく見る光景です。
ここで多くの会社が『新しい理念を作ろう』と動きます。気持ちは分かりますが、順番が違います。捨てるかどうかを決める前にやることがある。その言葉が、現場のどの場面を指しているのかを訳し直すことです。訳せたなら作り直す必要はなく、訳せなかったときに初めて、捨てる判断ができます。以下は想定事例です。

1.【before】新しい理念を作ろうとして、見積書で止まった

創業52年、従業員35名の金属加工会社。三代目に代替わりして2年目のことです。社員の年齢層が広がり、判断の基準がそろわない場面が増えていました。若手は効率を優先し、ベテランは手をかけることを譲らない。どちらも正しく、どちらも会社の方針を持ち出せない。

社長は『理念がないからだ』と考え、外部への依頼を検討します。返ってきた見積りを見て、手が止まりました。金額の問題ではありません。壁に、先代が掲げた社是が既にあったからです。

和衷協同。心を合わせて力を尽くす、という意味の言葉。社長も社員も意味は言えます。ただ、この言葉が判断に使われた場面を、誰も思い出せませんでした

意味は言えるのに、使われた場面が誰にも出てこない

2.死んでいたのは、言葉が古いからではなかった

社長は最初、言葉が古いせいだと思っていました。四文字の漢語では若手に響かない、と。ところが社員に聞いて回ると、様子が違いました。

ベテランの一人が言ったのは、『先代は、あの言葉を使って断ってた』という話でした。納期を無理に詰める依頼が来たとき、先代は『それをやると現場が割れる』と言って断っていた。社是は、そのときの判断の理由だった。

つまり言葉が死んだのではなく、その言葉が使われていた場面の記憶が、代替わりで途切れたということです。額縁だけが残り、使い方が引き継がれなかった。これは言葉の問題ではなく、引き継ぎの問題です

3.現代語訳とは、言い換えではなく場面への接続

ここでよくある失敗が、『和衷協同=チームワークを大切にする』と言い換えて終わることです。分かりやすくはなりますが、判断には一切使えません。どちらの言葉も、迷った場面で何を選ぶかを教えてくれないからです。

訳すというのは、この言葉を持ち出すのはどの場面かを決めることです。この会社が出した訳は、こうでした。『現場のうち誰か一人に無理が集中する仕事は、金額が良くても受けない』

抽象度は下がり、格好良さもなくなります。そのかわり、来週の見積り判断で使えます。理念が機能するかどうかは、格の高さではなく、使える粒度まで下りているかで決まります。

4.訳し直すための、四つの手順

先代を知る社員に『あの言葉を使っていた場面』を聞く
意味の解説を求めてはいけません。『先代がこの言葉を口にしたのは、どんな時でしたか』と、場面を聞く。言葉の意味は辞書に載っていますが、使われ方は社内の記憶にしかありません。ここが取れれば、訳の材料はほぼそろいます。ポイント:意味ではなく、使われた場面を聞き出す
訳文は『やらないこと』の形で書いてみる
『大切にする』『目指す』で書くと、必ず反対しにくい標語になります。『こういう仕事は受けない』『こういう決め方はしない』と、否定形で書く。否定形は判断に直結し、賛成も反対もできる形になりますポイント:肯定形の標語は、判断に使えない
直近1年の判断を3つ持ってきて、訳文と照らす
受注、採用、値決め。実際に迷った判断を並べ、訳文どおりに決めていたかを確認します。ずれていたなら、訳が違うか、判断が違うかのどちらか。この照合を飛ばすと、誰も反対しないが誰も使わない訳文が出来上がりますポイント:過去の判断で検証してから、掲げる
額縁はそのまま、下に訳文を貼る
元の言葉を外す必要はありません。四文字はそのまま、その下に訳文を一行だけ足す。先代の言葉を否定せずに現役へ戻せますし、次の代がまた訳し直すこともできます。理念は置き換えるものではなく、代ごとに訳し直すものです。ポイント:捨てずに、下に一行を足す

5.実業の当事者として言えること

私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。連合には歴史のある会社も多く、先代・先々代の言葉を持っている会社がいくつもあります

その実感として言えるのは、古い社是は、たいてい会社が一度痛い目に遭った経験から生まれているということです。抽象的な四文字の裏に、具体的な失敗がある。だから捨てるのは簡単ですが、捨てるとその失敗の記憶ごと失われます。数年後に同じ失敗を繰り返してから、なぜ先代があの言葉を選んだのかが分かる。それでは遅い。

もちろん、訳しても現場の判断に接続できない言葉はあります。事業が完全に変わっていれば、そういうこともある。そのときは堂々と作り直せばいい。大事なのは、訳す努力をした上で捨てるのと、面倒だから捨てるのとでは、次に作る言葉の質がまるで違うことです。前者は失敗の記憶を引き継げますが、後者はゼロから始めることになります。

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6.NORTH は、訳し直しから一緒に立つ

NORTH(BEYOND PLAYBOOK)は、立派な言葉を納品する立場ではありません。BEYOND Holdings 自身が実業を回す当事者として、先代を知る社員へのヒアリング → 使われていた場面の復元 → 否定形での訳出 → 直近の判断での検証までを、貴社の歴史に合わせて一緒に進めます。狙うのは、来週の判断で実際に使われる一行です。

まずは無料の経営理念・浸透度診断で、旗が判断の場面で使われているかを確かめてみてください。結果を見ながら、訳し直す言葉を一緒に決めましょう。

※本文中の会社・人物・社是は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。特定の企業を指すものではありません。手順は、BEYOND Holdings が複数の実業を運営する中で用いている一般的な整理であり、成果を保証するものではありません。