従業員24名の運送会社。売上の約2割を占める荷主が一社ありました。長い付き合いで、単価も悪くありません。ただ、現場の扱いだけが違いました。積み込み待ちで3時間待たされても連絡はなく、待機時間は請求できない。担当者の口調はきつく、若いドライバーが電話を切った後に黙り込むことが何度もありました。
社長は分かっていました。それでも切れなかった理由は単純です。2割の売上が消えたら、来期が持たない。だから毎回、現場をなだめる側に回りました。「あそこはああいう会社だから」「うちが我慢すれば済む」。
転機は、5年勤めたドライバーの退職でした。理由を聞くと、返ってきたのは待遇の話ではありませんでした。「あそこの現場に行く日が、朝から憂鬱でした」。この会社が失ったのは、2割の売上ではなく、育てた人でした。
取引先の評価というと、粗利や支払サイトの話になりがちです。もちろん重要ですが、それだけでは社員が払っているコストが計算に入りません。
理不尽な現場に行く社員は、精神的な消耗をしています。これは請求書には出てきませんが、離職という形で必ず後から請求されます。採用にかかる費用、育成にかけた時間、抜けた穴を埋める残業。合算すると、その取引で得ていた粗利を上回ることは珍しくありません。
そして今は、相手の姿勢を事前に調べられる時代でもあります。パートナーシップ構築宣言が10万社規模まで広がったということは、宣言している会社と、していない会社が見分けられるということ。宣言の有無だけで判断はできませんが、少なくとも取引条件について公に約束しているかどうかは確認できます。選ぶ材料は、以前より確実に増えています。
この会社は、2割の売上を一度に失ったわけではありません。半年かけて他の荷主を増やし、条件交渉が決裂した時点で受注量を段階的に落としました。それでも一時的に苦しい期はありました。
変わったのは、現場の空気です。朝礼で断った理由を聞いたドライバーが、後日こう言ったそうです。「うちの会社は、こっちの側に立ってくれるんだと分かった」。理念は、掲げた時ではなく、それに従って損をした時に伝わります。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。だから、断ることの怖さは本当によく分かります。売上の2割は、精神論で埋まりません。だからこそ順番が要る。代わりを作ってから、条件を提示して、それでも駄目なら離れる。
それでも一つだけ、順番を待たずに今日から決められることがあります。どういう仕事なら受けないのかを、一行書いておくこと。書いていなければ、判断は毎回その場の売上に流されます。書いてあれば、少なくとも迷った時に立ち返る場所ができます。
理念の言語化・共有・浸透・運用の4観点から、旗が判断の場面で使われているかをレーダーで特定します。登録不要・その場で結果。
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※背景データは、経済産業省が2026年7月7日にパートナーシップ構築宣言の登録企業数が2026年7月6日時点で10万社に到達したと公表したこと、2025年11月6日時点の登録企業数が80,702社であったこと、同宣言が2020年7月に開始され発注側企業が代表者名で価格転嫁・取引適正化やサプライチェーン全体の共存共栄を宣言する取組であること=経済産業省・中小企業庁の公表を参照しました。本文中の会社・人物は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。