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#経営理念#意思決定#人手不足
Management Column · 2026.08.04

『やらないことを決めろ』が、
いつまでも決まらない理由

「戦略とは、やらないことを決めることだ」。経営書でもセミナーでも、必ず出てくる言葉です。反論の余地がないほど正しい。ところが、この助言を持ち帰った会社で、翌月に何かが一つでも減っていることは、ほとんどありません。正しいのに、決まらない。今回はこの言葉を一度ほぐします。結論から言えば、多くの会社は引き算に失敗しているのではなく、引き算ができる状態にまだ立っていないだけです。

1.白書の『現状維持は最大のリスク』を、足し算だと読んでいないか

2026年4月に閣議決定された中小企業白書は、はっきりした言葉を掲げました。現状維持は最大のリスク。背景として挙がっているのが、約30年ぶりの高い賃上げ、労働供給制約社会の到来、そしてインフレと金利のある時代という三つの転換です。長期の視点で事業と組織を作り直し、稼ぐ力を高めよ、という趣旨になっています。

問題は、この一文の受け取り方です。多くの会社が「何か新しいことを始めなければ」と読みます。新商品、新チャネル、DX、採用強化。どれも間違いではありません。ただし、労働供給制約社会という前提の下では、足し算だけで応じた会社から順に、人が足りずに壊れます。やることを増やしながら人を増やせないなら、増えた分は今いる社員の残業と社長の休日が吸収するしかない。

だから引き算が要る。ここまでは、たいていの経営者が分かっています。それでも決まらないのが本題です。

正しいのに決まらない。多くの会社は引き算に失敗しているのではなく、引き算ができる状態に立っていない

2.やめられない、三つの本当の理由

一つ目は行き先がないこと。「やらないことを決める」は引き算に見えますが、実際には比較の作業です。AとBのどちらを残すかは、どこへ向かうかが決まっていて初めて比べられる。旗がないまま減らそうとすると、判断の物差しが『今いくら儲かっているか』しかなくなり、目先の売上がある仕事は永久に切れません。NORTHが理念や方向性を扱うのは、それが精神論だからではなく、やめる判断の物差しだからです。

二つ目は材料がないこと。同じ白書には、製品・サービス別に原価を管理している企業が67.8%、資金繰り計画を策定しているのは24.6%という数字があります。どの仕事がいくら残しているかを把握していなければ、やめる議論は必ず感情論になります。声の大きい人と、付き合いの長い相手が残る。

三つ目はやめた後の空白を設計していないこと。人も時間も、放っておけば余りません。空いた分は自然と別の雑用で埋まります。行き先を先に決めていない引き算は、ただの一時的な余白で、半年後には元の忙しさに戻っています。

3.引き算を、意思ではなく手続きにする四つの手

先に旗を一行にする ── 3年後に何で選ばれる会社か
『売上◯億』は行き先ではなく結果です。誰の、どんな場面で、真っ先に思い出される会社になるのか。この一行が決まると、目の前の仕事がその一行に効くかどうかで並べ替えられます。物差しが先、引き算は後です。ポイント:旗は、判断に使える具体性まで下ろす
やめる基準を、案件ではなく条件で先に書く
『この仕事をやめるか』を個別に議論すると、必ず情に流れます。先に基準を決める。粗利率が◯%未満、社長の同行が毎回必要、年間◯件未満。基準を先に置けば、あとは当てはめるだけの作業になります。ポイント:基準は、具体的な案件を思い浮かべる前に書く
社長の時間から、最初に一つやめる
現場に引き算を求めながら、社長の予定表だけが変わらない会社では誰も動きません。毎週の見積チェック、全案件の同行、朝礼の司会。社長が一つ手放して回るようにすると、引き算は本気だと社内に伝わります。ポイント:最初の一件は、必ず社長自身の仕事から出す
空いた人と時間の行き先を、やめると同時に決める
『月20時間空きます』で終わらせない。その20時間を何に充てるかを同じ会議で決めて、担当者の名前まで書く。行き先を書かない限り、空白は必ず元の忙しさに戻ります。ポイント:やめる決議と、振り向け先の決議をセットで出す

4.実業の当事者として言えること

私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。自分たちでも何度も経験しているのは、やめる決断の痛みは、始める決断の何倍も大きいということ。始めるときは希望の話ができますが、やめるときは必ず誰かの仕事と誇りに触れます。だから精神論では絶対に進みません。

進むのは、順番と手続きに落としたときだけです。旗を一行にする → 基準を条件で書く → 社長の時間から抜く → 空いた分の行き先を決める。この四つを会議の議題として持てば、やめる話は個人攻撃ではなく、ただの運用になります。

そしてもう一つ。やめたことは、社内に必ず言葉で残してください。『うちは今期からこれをやりません』と明言された会社の社員は、次に似た依頼が来たときに自分で断れます。何も言わずに減らすと、現場は『またいつか戻る』と思って身構えたままです。引き算が文化になるかどうかは、宣言したかどうかで決まります。

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5.NORTH は、旗を『やめる判断』が下せる形まで作る

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※背景データは、『現状維持は最大のリスク』というメッセージ・約30年ぶりの高い賃上げ・労働供給制約社会の到来・インフレと金利のある時代という3つの経営環境の転換=中小企業庁『2026年版 中小企業白書・小規模企業白書』(2026年4月24日閣議決定)、製品・サービス別の原価管理の実施率67.8%・資金繰り計画の策定24.6%=同白書を参照しました。本文中の進め方は、よくある状況をもとにした一般的な整理です。