期限が延びたと聞くと、まだ時間があると受け取ります。実際にはそうではありません。延びたのは計画を出す期限で、実行の期限は動いていないからです。個人版についても計画の提出期限は2028年9月30日まで延びましたが、構図は同じです。
計画を出してから実行までに必要なのは、書類の作成ではありません。株をどう移すか、誰が保証を引き継ぐか、取引先と金融機関にいつ伝えるか。これらの合意です。合意には時間がかかります。
つまり、期限ぎりぎりに計画を出す会社は、実行の準備をほとんど積んでいない状態でゴールに向かうことになります。適用の可否や手続は必ず顧問税理士と認定支援機関に確認が要りますが、制度を使うかどうか以前に、日付から逆算する作業が要るという点は共通です。
承継の準備が進まない会社に共通するのは、能力でも資金でもありません。日付がないことです。
日付がないと、何から手をつけるべきかが決まりません。株の整理が先なのか、後継者への権限移譲が先なのか、取引先への挨拶が先なのか。順番は、終わりの日から逆算して初めて決まります。
さらに、日付がないと誰も自分の番だと思いません。後継者は自分がいつから責任を持つのか分からず、幹部はいつまで現体制なのか分からない。結果として全員が待ちの姿勢になります。
そして最後に、日付がないと先延ばしが正当化されます。今期は忙しい、来期は設備投資がある、再来期は。理由は毎年見つかります。
一つ目、選択肢が減っていきます。承継の手段は複数あります。親族内、社内、第三者。どれも準備期間が要ります。時間が短くなるほど、選べる手段は減ります。
二つ目、条件が悪くなります。急いで決めた承継は、買い手にも後継者にも足元を見られます。時間がないという事実そのものが、交渉上の不利です。
三つ目、後継者が去ります。いつ任されるのか分からない状態を、何年も待てる人は多くありません。候補がいるうちに日付を言わなかったために、候補がいなくなった会社を私たちは実際に見ています。
いきなり社外に公表する必要はありません。順番があります。
①自分の中で年と月を決める。日まで決めなくて構いません。『2029年の3月』のように、決算期に合わせた粒度で十分です。
②配偶者と後継候補に伝える。ここが最初の相手です。株や資産の話は後回しで構いません。先に伝えるのは時期だけ。
③顧問税理士と金融機関に伝える。制度を使うかどうかの判断は、時期が決まって初めて意味を持ちます。時期を言わずに相談しても、一般論しか返ってきません。
④幹部に伝える。ここまで来たら、社内の準備が動き始めます。誰に何を引き継ぐかの議論は、時期が共有されてからのほうが速い。
そして重要なのは、一度言った日付を簡単に動かさないことです。事情で動かす場合は、動かす理由と新しい日付を同時に言う。理由だけを言って日付を空にすると、次から誰も信じません。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。承継を受けた側にも、渡す側にも立った経験があります。
渡す側で分かったのは、日付を言った瞬間に、自分の仕事の棚卸しが始まるということでした。あと何年と決めると、この仕事は引き継げるのか、引き継げないなら仕組みに変えるのかを考えざるを得ません。日付は、後継者のためというより、まず自分の行動を変えます。
受けた側で分かったのは、日付があると、聞きにくいことが聞けるということでした。時期が決まっていないうちに承継の詳細を尋ねるのは、催促しているように聞こえます。決まってしまえば、それは単なる引き継ぎの実務の話になります。
制度の期限は、それ自体が目的ではありません。ただ、外から与えられた日付は、決められない会社にとって最も使いやすいきっかけです。
NORTHで伴走する場合、制度の解説から入ることはしません。まず、承継の年と月を決めるところから始めます。決まらない場合は、決まらない理由のほうを先に扱います。たいていは、渡したあとの自分の居場所が見えていないことが原因です。
日付が決まったら、そこから逆算して、株・保証・権限・取引先・金融機関の順番を並べます。制度を使うかどうかの検討は、この並びのどこに置くかという話になります。適用の可否は顧問税理士と認定支援機関にご確認ください。私たちが一緒にやるのは、その手前の意思決定です。
まずは無料の経営理念・浸透度診断で、会社の旗と次の代の準備がどれくらい噛み合っているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に伝える相手を一緒に決めます。
※背景データは、令和8年度税制改正において法人版事業承継税制(特例措置)の特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長され、特例措置の適用期限(贈与・相続の実行期限)が2027年12月31日で据え置かれたこと、個人版事業承継税制の個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日まで延長されたことを参照しました。本記事は制度の概要に関する一般的な整理であり、適用要件・手続・税額の判定について助言するものではありません。適用の可否および具体的な手続は、顧問税理士および認定支援機関に必ずご確認ください。