従業員48名の業務用食材の卸会社。若手が提案したのは、小口の飲食店向けに、少量からの定期配送を始めるという企画でした。既存は月に一度のまとめ配送で、最低ロットも大きい。
役員会で、最も強く反対したのは営業部長でした。理由は明快です。『いまの取引先が、そっちに流れる』。既存客が小口プランに切り替えれば、単価は下がり、配送回数は増える。手間が増えて売上が減るという指摘でした。
誰も反論できませんでした。企画は保留になり、そのまま消えました。
2年後、地域の同業他社が、ほぼ同じ形の小口定期配送を始めました。想定どおり、既存客の一部がそちらへ移りました。
ここで社長が気づいたのは、共食いは避けられたのではなく、他社に譲っただけだったということです。しかも移った客は戻ってきません。他社との取引が始まれば、まとめ配送の分まで少しずつ持っていかれます。
自社でやっていれば、単価が下がっても売上は社内に残っていました。他社に取られた場合、残るのはゼロです。この差は、当時の役員会では一度も議論されませんでした。
後から検証すると、当時の議論には三つの見落としがありました。
一つ目、移る客の数を誰も見積もっていない。『流れる』と言われただけで、何社が、売上のいくら分が移るのかは出ていませんでした。実際に試算すると、小口プランに合う既存客は全体の2割程度で、その多くはもともと取引額の小さい先でした。
二つ目、新しく増える客が計算に入っていない。共食いの議論は既存客だけを見ますが、小口だから取引できる新規客がいます。差し引きで見なければ、判断材料になりません。
三つ目、やらなかった場合の損失がゼロとして扱われていた。止めれば現状維持だと考えがちですが、他社がやれば現状は維持されません。比べるべきは『やる場合』と『やらない場合』ではなく、『自社でやる場合』と『他社がやる場合』です。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。既存事業と新規事業が食い合う場面には、実際に何度も直面してきました。
その経験で言えるのは、共食いを理由にした反対は、たいてい正しく、そして遅いということです。指摘そのものは事実に基づいている。既存客は確かに流れます。ただ、その指摘は『だからやらない』の理由にはなっても、『だから他社もやらない』の保証にはなりません。
そしてもう一つ。共食いを恐れる会社ほど、既存事業の利益率が高いという傾向があります。守るものが大きいので、慎重になるのは自然です。ところが利益率の高い事業は、外から見ても魅力的に映ります。守りたい事業ほど、狙われている。
だから判断の順番はこうなります。まず金額を出す。次に、他社でもできるかを見る。できるなら、自分で食う。痛みは同じでも、売上が社内に残るかどうかが違います。共食いは避けるものではなく、誰がやるかを決めるものだと考えたほうが、実務に合っています。
既存資産・市場性・体力・撤退基準の4観点から、次の一手が自社の地続きにあるかをレーダーで特定します。登録不要・その場で結果。
▶ 新規事業の種・診断をはじめる 無料で相談するSEED(BEYOND PLAYBOOK)は、新規事業を勧める立場でも止める立場でもありません。BEYOND Holdings 自身が実業を回す当事者として、食い合う範囲の試算 → 新規で増える分の見積り → 担当と評価の切り分け → 移行期限の設定までを、貴社の顧客構成に合わせて一緒に整理します。狙うのは、感覚ではなく金額で決められる状態です。
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※本文中の会社・人物・数値は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。特定の企業を指すものではありません。手順は、BEYOND Holdings が複数の実業を運営する中で用いている一般的な整理であり、成果を保証するものではありません。