従業員60名の住宅設備工事会社。本業は堅調でしたが、社長は10年後を見て第二の柱を探していました。そこで新規事業アイデアの社内公募を始めます。応募用紙はA4一枚。全社集会で社長が自ら呼びかけました。
1年目は12件集まりました。若手からも出て、社内は明らかに活気づいた。役員会で審査し、そのうち1件を採用と決めます。
翌年、同じ形で募集をかけました。応募はゼロ件でした。社長は驚き、部長に理由を聞きます。返ってきた答えは短いものでした。『去年出した人が、その後どうなったか見ていますから』。
あらためて追うと、三つのことが起きていました。
落選した11人に、何も返っていなかった。役員会で議論はしたものの、伝えたのは採用1件の発表だけ。残りの11人は、読まれたのかどうかすら分かりません。提案は、無視されたのと同じ形で終わりました。
採用された1件も、動いていなかった。提案者は通常業務を持ったままで、時間も予算も与えられていない。『いいアイデアだから進めてくれ』と言われただけです。半年経っても着手できず、本人は社内で言い出したのに何もしていない人のような立場になっていました。
提出のハードルが高すぎた。用紙はA4一枚でしたが、記入欄には市場規模、収支見込み、必要人員。思いつきの段階では書けない項目ばかりで、書ける人は数字を作文するしかありませんでした。
この会社が最初に整えたのは審査基準でした。順番が逆です。公募制度の成否は、審査の精度ではなく、出した人がその後どう扱われるかで決まります。
社員が見ているのは、自分のアイデアが通るかどうかだけではありません。提案した人が得をしたか、損をしたかです。ここで損をした前例が一つできると、翌年から誰も手を挙げません。逆に、落選しても丁寧に返された前例があれば、応募は続きます。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を回している当事者です。連合の中でも、手を挙げた人に何を渡すかという議論は何度もしてきました。
実感として言えるのは、公募制度の本当の成果は、事業が生まれることではないということです。十数件のアイデアから事業になるのは、現実にはごく一部。それでも制度に意味があるのは、社員が自社の外側を見て考える機会そのものにあります。
だからこそ、落選の扱いが決定的に効きます。丁寧に返された人は、翌年また考えます。考える人が社内に増えることが成果であって、採用件数ではない。ここを取り違えると、審査を厳しくして応募を減らすという逆の運用に向かいます。
そしてもう一つ。社長が最初の年に自分の案を出さないほうがいい。社長案が並ぶと、社員は忖度した案を出します。手を挙げる制度なのに、上を見て書くことになる。社長の役割は、出しやすくすることと、出した人が損をしないようにすることです。それだけで十分に重い仕事です。
既存資産・市場性・体力・撤退基準の4観点から、次の一手が自社の地続きにあるかをレーダーで特定します。登録不要・その場で結果。
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※本文中の会社・人物・件数は、よくある状況をもとに構成した想定事例です。特定の企業を指すものではありません。手順は、BEYOND Holdings が複数の実業を運営する中で用いている一般的な整理であり、成果を保証するものではありません。