従業員22名の運送会社が、隣接する領域に事業を広げようとした想定事例です。取引先から要望があり、需要は確かにありました。
社長が立てた計画はこうです。4月に申請、7月に許可、8月から営業開始。逆算して、5月に設備を発注し、6月に人を2名採用しました。
ところが、申請そのものが4月に出せませんでした。要件を満たす人員の配置と、施設の要件確認に想定より時間がかかったからです。実際に申請できたのは7月。
その間、設備のリース料と2名分の人件費は発生し続けました。売上ゼロの月が、計画より5か月伸びた。
この会社が見ていたのは、審査にかかる期間だけでした。窓口で聞いた目安をそのままスケジュールに置いていた。
実際の所要時間は三層あります。①要件を満たす準備、②書類の作成と収集、③行政の審査。多くの会社が見積もるのは③だけです。
そして①が、いちばん読めません。有資格者の確保、施設や設備の基準適合、財産的基礎の確認。どれも、足りないと分かってから埋めるのに数か月かかります。
参考までに、建設業許可では国土交通大臣許可の標準処理期間が国の通達で示されており、都道府県知事許可については各都道府県が期間を定めています。こうした目安が公表されている分野でも、示されているのは③の部分だけです。①と②は自社の事情で決まります。
この会社が翌年に別の領域へ出るとき、進め方を変えました。
①所管の窓口に、申請前に相談に行く。何が足りないかを、書類を作る前に聞く。ここで判明した不足が、そのままスケジュールの起点になります。
②要件のうち、人に関わるものを最優先にする。有資格者や実務経験者の確保は、他社との取り合いになります。設備は金で解決できますが、人は時間でしか解決できません。
③設備の発注は、申請が受理されてから。前年の失敗の直接の原因がここでした。受理は許可ではありませんが、要件を満たしたという一つの区切りにはなります。
④営業開始日を、取引先に先に言わない。言った瞬間に日付が固定され、遅れたときに信用を失います。許可が下りてから連絡すると決めました。
二度目も、計画どおりには進みませんでした。許可は予定より2か月遅れました。
それでも、損失はほとんど出ていません。設備の発注が後ろに置かれていたのでリース料が発生せず、営業開始日を外に告げていなかったので取引先への説明も不要でした。
遅れること自体は避けられない。避けられるのは、遅れが費用に変わる構造のほうです。
この会社が得た教訓は一行でした。『許可が要る事業は、許可が下りるまで何も始まっていないと考える』。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。許認可が絡む領域にも出ています。
私たちが決めているのは、許認可が要る案件は、事業計画の開始月を二つ持つということです。一つは許可が予定どおり下りた場合、もう一つは3か月遅れた場合。遅れた場合の計画で資金が回るかどうかを、投資判断の条件にしています。
もう一つ。補助金と許認可を同時に走らせるときは、特に注意が要ります。補助金には交付決定や事業期間の定めがあり、許可の遅れがそのまま制度上の期限に当たることがあるためです。両方の期限を一枚の紙に並べ、どちらが先に来るかを確認する。ここを口頭で済ませると、後で取り返しがつきません。
SEEDで伴走する場合、市場性の議論と並行して許認可の三層を先に洗います。要件の準備、書類、審査。このうち自社で読めるのは前の二つだけなので、そこに時間を割きます。
そのうえで、人の要件の着手時期、設備発注のタイミング、外部への告知の可否、そして遅れた場合の事業計画まで。許認可の種類や要件は事業内容と所在地で変わるため、所管の行政庁および行政書士等の専門家への確認とセットで進めます。
まずは無料の新規事業の種・診断で、自社の新規事業がどこで詰まりやすいかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に確認する一つの要件を一緒に選びます。
※本記事に登場する会社および経緯は、中小企業の現場でよくある状況をもとに構成した想定事例であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の月数はすべて説明のための仮設例です。建設業許可については、国土交通大臣許可の標準処理期間が国土交通省の通達で示されており、都道府県知事許可の標準処理期間は各都道府県が定めています。必要な許認可の種類・要件・期間は事業内容および所在地により異なるため、所管の行政庁および行政書士等の専門家に必ずご確認ください。