← SEEDトップへ
#新規事業#意思決定#差別化
Management Column · 2026.10.03

一社と組んで試すと、
その一社にしか売れないものができる

新規事業は、既存客一社と組んで小さく試す。正しい進め方です。
ところがそのまま進めると、その一社にしか売れないものができます。
相手の要望は具体的で、断る理由が見つからない。だから全部取り込んでしまう。

1. 一社の要望は、具体的すぎる

市場調査の答えは曖昧です。『あったらいいと思う』『価格次第』。使えません。

一方、一社と組むと答えは具体的に返ってきます。『この寸法で』『この帳票の形式で』『この時間までに』。具体的だから、そのまま作れます。

これが落とし穴です。具体的な要望には、二種類が混ざっています。

①その業種なら誰でも必要なもの。②その一社の事情から来るもの。

そして相手は、この二つを区別して話しません。区別する必要がないからです。区別するのはこちらの仕事なのに、ほとんどの会社がやっていません。

01具体的な要望ほど、一社固有の事情が混ざる
相手は自社の事情とその業種の標準を区別して話しません。受け取る側が切り分けないと、全部が仕様になります。ポイント:曖昧な答えより、具体的な答えのほうが危ない

2. 全部取り込むと、何が起きるか

一社専用になった商品には、三つの症状が出ます。

①二社目の商談で、説明が長くなる。なぜこの仕様なのかを説明できない。『前のお客様がそうだったので』とは言えません。

②価格が合わない。一社のために作った機能の分、原価が乗っています。二社目はその機能を使わないので、払う理由がありません。

③直せない。最初の一社がすでに使っているので、仕様を変えると既存のほうが動かなくなる。一社目が制約に変わります。

そして最悪の形は、一社目との取引が切れたときに、その商品ごと消えることです。検証のつもりで作ったものが、一社依存の塊になっています。

3. 相手の選び方を変える

一社と組むこと自体は正しい。変えるのは選び方です。

①その業種の中で、平均的な会社を選ぶ。いちばん進んでいる会社や、いちばん要求の厳しい会社を選びたくなります。そこで通れば他でも通ると思うからです。実際は逆で、特殊な要求だけが仕様に残ります。

②付き合いが長すぎない相手を選ぶ。関係が深いと断れません。無理な要望も受けてしまいます。

③同業の二社目が想像できる相手を選ぶ。『この会社と同じ規模・同じ業種の会社が、他に何社あるか』を先に数えます。数えられない相手は、検証の相手ではありません。

4. 要望を、三つの箱に分けながら進める

ここが実務の中心です。相手から出た要望を、その場で三つに分けて記録します。

①標準に入れるもの。その業種なら誰でも要るもの。

②オプションにするもの。要る会社と要らない会社があるもの。作るが、標準からは外します。

③今回だけ対応するもの。その一社の事情から来るもの。やるが、商品には入れません。

判定の基準は一つです。『同業の他社に、この要望はあるか』。分からなければ②に入れます。迷ったものを①に入れるのが、過剰適合の入口です。

そしてこの分類を、相手にも見せます。『これは標準に入れます、これは今回だけの対応です』。隠すと、後で全部やってもらえると思われます。

02迷った要望は標準に入れず、オプションに置く
同業他社にもあるか分からない要望を標準に入れると、二社目で説明できなくなります。迷いは中間の箱へ。ポイント:標準に入れる基準は、確信があるかどうか

5. 二社目に行く時期を、先に決める

一社で完成させてから二社目へ、という順番では遅い。一社目が動き出した時点で二社目に当たります。

目的は受注ではありません。①の箱に入れた仕様が、本当に標準でいいかを確かめることです。二社目に見せて『これは要らない』と言われたら、その項目は②に移します。

この確認は、三社目まではやる価値があります。三社で共通していた項目だけが、本当の標準です。

そして時期を先に決めておく理由は、一社目との関係が深まると二社目に行きにくくなるからです。『一緒に作ったものを他に売るのか』という話になる前に、最初に伝えておきます。

費用の負担、知的財産の帰属、秘密保持の範囲。ここは契約内容と関係法令に照らした確認が必要です。口頭で始めると、二社目に行く段階で必ず揉めます。

6. 実業の当事者として言えること

BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。一社と組む形の検証は何度もやりました。

失敗の形はいつも同じでした。いちばん要求の厳しい相手を選んだ。そこで通れば他でも通ると考えたからです。できあがったのは、その一社のための設備でした。二社目は、その機能の分だけ高い見積を見て断りました。

うまくいったのは、平均的な相手を選び、三つの箱を相手に見せながら進めたときです。相手も納得します。『今回だけの対応』と明示したものは、追加費用の話もしやすい。

もう一つ。二社目に当たるのが早いほど、一社目との関係が壊れません。後から言うと裏切りに見えますが、最初から『同業にも展開します』と伝えてあれば、相手も最初の導入事例として扱ってくれます。伝える時期の問題でした。

60秒・無料診断

その試作、二社目に持っていけますか?

60秒の無料診断で、自社の新規事業がどこで詰まりやすいかを確かめられます。

▶ 新規事業の種・診断をはじめる 無料で相談する

7. SEEDは、相手選びと箱分けから一緒にやる

SEEDで伴走する場合、試作の設計から入りません。組む相手の候補を三社挙げ、同業の二社目が何社想像できるかを数えるところから始めます。ここで平均的な相手を選べれば、後の作業がほとんど楽になります。

そのうえで、三つの箱の運用、相手への開示の仕方、二社目に当たる時期の設定まで。一社目に伝える文面も一緒に作ります。費用負担・知的財産・秘密保持については、契約内容と関係法令の確認とセットで進めてください。

まずは無料の新規事業の種・診断で、自社の新規事業がどこで詰まりやすいかを確かめてみてください。結果を見ながら、組む相手の候補を一緒に並べます。

※本記事の手順および数値は、中小企業の現場でよくある状況をもとにした一般的な整理であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はすべて説明のための仮設例です。試作や共同での検証にあたっては、費用の負担、知的財産の帰属、秘密保持の範囲について、契約内容および関係法令に照らして個別にご確認ください。