『本見積の有効期限は発行日より30日間とします』。この一文に、相手が従う理由はありません。なぜ30日なのかが書かれていないからです。
そして期限が過ぎても、こちらは何もしません。同じ条件で受注します。一度でもそれをやれば、次から期限は無効になります。
営業の側にも問題が起きます。期限を根拠に連絡しようとすると、『そろそろいかがでしょうか』という催促の形しか取れません。相手の検討を急がせる言い方は、担当者にとって最も気が重い連絡です。だからしない。
結果、見積は出したまま止まります。相手の社内でも議題に上がりません。期限がないものは、いつ検討しても同じだからです。
中小企業が実際に使える理由は、だいたい三つです。どれも作り話ではなく、本当に起きていることです。
①仕入価格が動く。材料費や外注費の見積りに有効期間がある場合、その範囲を超えて価格を保証できません。仕入先からの回答期限を、そのまま自社の期限にするのが最も自然です。
②資材や在庫を確保している。見積の段階で押さえているものがあるなら、いつまで押さえられるかが期限になります。
③人員や工期を押さえている。特定の期間の枠を空けている場合、それを他の案件に回す判断の時期があります。
この三つのどれかを書くと、連絡の性格が変わります。『ご検討はいかがでしょうか』ではなく、『仕入先からの回答が来月5日までなので、それまでにご返答いただけると同条件でお出しできます』。これは催促ではなく、情報提供です。
見積書に足すのは三行です。営業ごとに揺れないよう、書式に組み込みます。
①期限の日付。『30日間』ではなく具体的な日付にします。日数表記は相手が計算しないので機能しません。
②期限の理由。一行で、前節の三つのどれかを書く。
③期限を過ぎた場合どうなるか。ここが抜けている見積が大半です。『期限経過後は、その時点の仕入価格で再見積となります』。無効になるのではなく、再見積になる。相手にとっては受け入れやすく、こちらは価格を守れます。
期限を書いても、切れたあとの動きを決めていなければ同じです。
①期限の一週間前に連絡する。切れた後ではなく前。この連絡は催促ではなく、期限の案内です。
②相手の社内の事情を聞く。決裁が止まっているのか、他社と比較中なのか、そもそも予算がついていないのか。期限の連絡は、この情報を取る口実として最も自然です。
③延ばすなら理由をつけて延ばす。『仕入先に再確認したので、あと2週間は同条件で出せます』。理由つきの延長は、期限を無効化しません。理由なしの延長だけが無効化します。
④再見積は本当に出し直す。同じ金額であっても、日付と期限を新しくした書面を出す。ここを口頭で済ませると、次の期限も効きません。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。期限の書き方は、グループ内で揃えました。
やってみて意外だったのは、相手から嫌がられなかったことです。理由が書いてあると、先方の担当者が社内で説明しやすい。『この日までに決めないと価格が変わります』は、決裁を通すための材料になります。こちらの都合を押しつけているつもりが、相手の仕事を助けていました。
もう一つ。期限の連絡をきっかけに、失注が早く分かるようになりました。返事がないまま数か月置かれていた案件が、期限の連絡で白黒つく。受注が増えたかどうかより、営業が追いかける対象が絞られた効果のほうが大きかった。
そして、期限を書けない案件があることも分かりました。仕入も在庫も人員も押さえていないなら、理由がない。その場合は期限を書かず、代わりに次回連絡する日をこちらから伝えるようにしています。
SURGEで伴走する場合、営業の話し方から入りません。いまの見積書式に期限の理由と期限経過後の扱いが書かれているかを確かめるところから始めます。ほとんどの会社で、この二行が抜けています。
そのうえで、自社が実際に押さえているものの棚卸し、三行の文面、一週間前の連絡、理由つき延長のルールまで。書式を直すだけでは運用に乗らないので、期限が来た案件の処理まで型にします。
まずは無料の売上診断で、いま売上のどこで案件が止まっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に書式へ足す一行を一緒に決めます。
※本記事の文面例および手順は、中小企業の現場でよくある状況をもとにした一般的な整理であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はすべて説明のための仮設例です。見積条件・契約条件の設定および変更にあたっては、既存の契約内容および関係法令に照らして個別にご確認ください。