作り込んだ提案書には、二つの副作用があります。
一つ目、こちらが直せなくなります。何時間もかけたものを根本から変えるのは、心理的にきつい。結果、相手の指摘を枝葉の修正として処理してしまいます。方向のずれが残ったまま進みます。
二つ目、相手が言いにくくなります。きれいに仕上がったものを前にして『そもそも違う』とは言いづらい。相手は気を使って、細かい指摘だけをします。本当のずれは口に出されません。
そして最後に、比較の土俵に乗ります。完成品を並べられると、違いは価格と見栄えになります。
やることは単純です。提案を作り始めた段階で一度、方向だけを確認する。
持っていくのは、A4一枚です。中身は三つだけ。
①こちらが理解した課題。聞き取った内容を、こちらの言葉で言い直したもの。ここがずれていたら、提案は全部作り直しになります。だから最初に確かめます。
②取り得る方向が二つか三つ。一つに絞りません。『この方向と、この方向があります』という提示にします。
③それぞれのおおよその規模。金額の幅と期間の幅。精密でなくて構いません。桁が合っているかだけを確かめます。
この一枚に、見栄えは要りません。手書きでも成立します。むしろ手書きのほうが、相手は遠慮なく直します。
方向を並べるだけでは、相手も選べません。こちらの推しを書きます。
書き方は『現時点では、この方向が合うと考えています。理由は二つです』。断定せず、しかし立場を示す。
これが効くのは、相手が反応する対象ができるからです。白紙を見せて『どうしましょう』と聞くと、相手は考える負担を引き受けることになります。仮の結論があれば、賛成か修正かで答えられます。
そして、ここで出てくる修正こそが本当の要件です。完成品への指摘よりはるかに深い情報が出ます。
この進め方に、営業は必ず抵抗します。理由は『雑だと思われる』です。
外し方は二つあります。
①目的を言葉にして渡す。『方向のご確認をいただきたいので、あえてこの段階でお持ちしました』。一言添えるだけで、雑さが意図になります。
②様式を決めて社内の標準にする。個人の判断で未完成のものを出すのは勇気が要りますが、会社の進め方として様式があるなら迷いません。
そして、時間をもらう長さを短くする。30分でなく15分。短ければ相手も受けやすく、こちらも長く話し込まずに済みます。
①価格を確定して出さない。仮の段階で金額を固めると、その後に上げられません。幅で出します。
②この場で決めてもらおうとしない。目的は方向の確認だけです。受注を取りに行くと、相手は身構えます。
③中間確認を省かない相手を決めない。既存の付き合いが長く、要件が毎回同じ相手には不要です。全件に適用すると、かえって手間が増えます。初めての相手と、金額の大きい案件に限ります。
BEYONDはコンサルティング会社ではなく、自分たちで複数の事業会社を経営している集まりです。この進め方は、グループ内で揃えました。
変わったのは受注率より、提案一件あたりの作成時間でした。作り直しが減ったぶん、一件に使う総時間が落ちた。同じ人数で出せる提案の数が増えました。
そして副産物がありました。中間確認で降りる案件が出てきたことです。方向を並べた段階で『今期は予算が出ない』と分かる。完成品を作ってから失注するより、ずっと安い。
失敗したのは、中間確認の一枚を作り込んだときでした。きれいに作った結果、相手が遠慮して本当の指摘が出なかった。この一枚は、わざと粗くするのが正しい。ここは最後まで営業が納得しにくい部分です。
SURGEで伴走する場合、提案書のテンプレートを立派にするところから入りません。中間確認用のA4一枚の様式を作るところから始めます。課題の言い直し、方向二案か三案、規模の幅、そして仮の結論。これだけです。
そのうえで、適用する案件の線引き、15分の時間の取り方、価格を幅で出す書き方まで。作り直しの回数を記録して三か月後に比べるところまでを設計に含めます。
まずは無料の売上診断で、いま売上のどこで時間が溶けているかを確かめてみてください。結果を見ながら、最初に適用する一件を一緒に選びます。
※本記事の手順および数値は、中小企業の現場でよくある状況をもとにした一般的な整理であり、特定の企業の実例ではありません。本文中の数値はすべて説明のための仮設例です。提案時の情報の取り扱いについては、相手方との守秘義務および自社の規程に照らして適切に扱ってください。