従業員27名の金属加工会社。中途採用を進めていて、半年で三人に内定を出しました。
三人とも辞退しました。理由はそれぞれ違う言い方でしたが、中身は同じでした。家族が心配している。
社長は最初、条件の問題だと考えました。給与を上げる検討をした。ところが、辞退した一人から後で聞いた話はこうでした。『給与は問題なかった。会社が分からないと言われた』。
本人は面接に来て、工場を見て、社長と話しています。判断の材料があります。
家族は違います。会ったことも見たこともない。材料は二つだけです。本人から聞いた話と、社名を検索して出てきたもの。
この会社の場合、社名で検索して出てくるのは十年前のまま更新されていない会社概要と、求人媒体の掲載だけでした。危ないとは思われないが、安心もされない状態です。
そして本人は、家族に説明する言葉を持っていませんでした。『良い会社だと思う』以上のことを言えない。説明の責任が、いちばん情報を持っていない人に預けられていたということです。
やったことは単純でした。面接の最後に渡す一枚を作る。宛先は本人ではなく、本人が見せる相手です。
作る上での縛りを一つだけ決めました。業界の言葉を使わない。読むのは同業の人ではないからです。
この一枚をいつ渡すかで効き方が変わります。この会社は最初、内定通知と一緒に渡していました。
変えたのは、面接の最後です。理由は、家族への相談が内定の前に起きているからです。内定が出てから渡しても、相談は済んでいます。
そして渡すときの一言も決めました。『ご家族に聞かれたら、これを見せてください』。家族のためと言い切る。本人の判断を疑っているように聞こえないよう、言い方を揃えました。
その後の半年で、二人が入社しました。辞退も一件ありましたが、理由は通勤距離でした。
社長の受け取りはこうでした。条件で断られるのはいい。分からないから断られるのが損だった。
副産物もありました。この一枚は異動と配置換えの説明にも使えた。勤務地が変わる話をするとき、本人が家族に説明する材料が要るのは採用と同じでした。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。採用も異動も自分たちでやっています。
見落としていたのは、社員が家族に会社の話をしているという当たり前の事実でした。毎日の会話の中で、会社がどういうところかが伝わっている。そこに渡している材料が、こちらには見えていません。
効いたのは、社員向けに作った説明をそのまま使えるようにしたことでした。社内で使っている言葉が、家族にも届く言葉になっていれば一枚で済む。逆に社内向けの説明が業界用語だらけなら、家族には何も伝わっていません。
もう一つ。これは理念の話でもありました。自社がどういう会社かを、業界の外の人に一枚で説明できるか。できないなら、社内でも共有されていない可能性があります。家族に説明できるかどうかは、理念が言葉になっているかの検査になります。
今日やるなら、一つで足ります。自社の説明を、家族に読んでもらう。分からないと言われた箇所が、直す場所です。
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※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の人数・件数はすべて説明のための仮の数値です。労働条件の明示や異動に関する取扱いには関係法令にもとづく定めがあり、個別の対応は社会保険労務士にご確認ください。
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