従業員21名の金属加工業。現場は一棟で、工具の棚が二か所、治具は壁際のラックに置いてあります。
苦情は半年前から続いていました。使いたい工具が、置き場にない。探して見つからず、別のもので代用する日もありました。
現場からの要望は置き場の増設でした。棚を増やして、種類ごとに分ける。見積は三十万円ほどでした。
社長が引っかかったのは、二年前にも同じ理由で棚を増やしていたことでした。増やした後も苦情は止まっていません。
置き場を変えるのは、原因が置き場にある場合だけ効きます。確かめずに変えると、変えた後に同じ苦情が出ます。
二年前の増設がそうでした。棚は増えたが、苦情の数は変わらなかった。原因が別のところにあったからです。
そこで測ることにしました。測るものは三つだけに絞りました。何を探したか、どれくらいかかったか、最後にどこで見つかったか。
見つかった場所を書いてもらうのが肝でした。どこにあったかがわかれば、置き場の問題か戻しの問題かが切り分けられます。
工具棚の横にクリップボードを下げ、三列の紙を貼りました。記入は一行、十秒で済む形にしました。
一週間で集まったのは47行でした。合計の時間は、おおよそ4時間ほど。一人あたりで見れば一週間に十数分です。
社長の最初の感想は、思ったより少ないというものでした。ところが見つかった場所の列を集計すると、別のことが見えました。
47行のうち、置き場になかったものが38行。そのうち別の作業台の上にあったものが25行でした。
つまり棚が足りないのではなく、使った後に戻っていなかった。棚を増やしても、戻らなければ同じことが起きます。
戻っていない25行を、使った人に聞いていきました。出てきた理由は三つでした。
一つめ、後でまた使うから手元に置いた。その日のうちに使う予定があり、往復が無駄に感じられた。これは合理的な判断です。
二つめ、どこに戻すかが分からなかった。似た工具が並んでいて、元の位置が特定できない。戻す場所を探す時間がかかるなら、置いたままになります。
三つめ、戻しに行く途中で別の仕事が入った。手に持ったまま呼ばれて、そのまま近くに置いた。
三つのうち、注意で直るものは一つもありません。直すなら、戻る形を作るほうが確実です。
三か月後、同じ一週間で測った結果は31行。47行から減りましたが、劇的ではありません。
社長が成果だと言ったのは、別の数字でした。別の作業台の上にあったものが、25行から6行に減っていた。
探す行為そのものは残っています。ただし残ったのは、置き場にないのではなく置き場まで歩く時間でした。これは棚の配置の問題で、次に手を付ける対象がはっきりしました。
そして棚の増設は、やめました。三十万円の見積は、原因が別だったので保留のままです。
代わりに使ったのは、テープと手描きの印だけでした。かかった費用は数千円です。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。工具を使う現場が社内にあります。
何度もやってしまったのは、測る前に設備や棚を買うことでした。苦情が出ている以上、何か買って応えたくなります。買うと動いた感じがする。
ところが買った後に同じ苦情が出ると、次は現場の意識の問題だという話になります。原因を確かめていないので、人のせいにする以外の説明が残らない。
測るようになって変わったのは、現場との会話が原因の話になったことでした。見つかった場所の列があると、だらしないという話にはなりません。戻る途中で呼ばれた、という事実が紙に出ます。
もう一つ。測ると、思っていたほど大きな損失ではないこともわかります。一人あたり週十数分。これを知った上で、数千円で対処するか三十万円かけるかを決められる。
いま現場から置き場の要望が出ているなら、最初に一つだけやってください。一週間だけ、何を探して、どこで見つかったかを書いてもらう。見つかった場所の列が、直す場所を教えてくれます。
GEAR(BEYOND PLAYBOOK)は、整理整頓の型を外から持ち込むのではありません。BEYOND Holdings 自身が工具を使う現場を回す当事者として、探した時間の測り方 → 見つかった場所からの原因切り分け → 戻る形の設計 → 月に一度の再測定までを、貴社の現場の形に合わせて一緒に整理します。
まずは無料の業務ムダ診断で、いまどの業務に負荷が溜まっているかを確かめてみてください。結果を見ながら、どこから測るかを一緒に決めましょう。
※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の人数・回数・時間・金額はすべて説明のための仮の数値です。工具および作業設備の点検、保管、使用にあたっては労働安全衛生に関する法令上の定めがあり、定期自主検査や有資格者による取扱いが求められる機器もあります。保管方法を変更する際は、所轄の労働基準監督署および専門家にご確認ください。