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#数字・見える化#価格・値上げ#財務・資金繰り
Management Column · 2026.07.29

人件費は自動で上がる。
売値は、自動では上がらない

2026年7月28日、中央最低賃金審議会は2026年度の引き上げ目安を全国加重平均1,176円(+55円・4.9%増)と取りまとめました(日本経済新聞)。Aランクが+54円、B・Cランクが+56円と、地方の引き上げ幅がわずかに大きい配分です。10月からの発効に向けて、人件費は会社の意思とは無関係に上がっていく。一方、売値は誰も自動では上げてくれません。この非対称を埋める交渉の場で、最初に問われるのは「その仕事、いくら残っていますか」という一点です。

1.いま起きていること ── 上がるコストと、上がらない売値

2026年上半期の企業倒産は5,335件、うち物価高倒産は556件で過去最多を大幅更新しました(帝国データバンク)。売れていないから潰れるのではなく、売れているのに残らないから潰れるという形が増えています。最低賃金の+55円は、パート比率の高い現場ほど直撃します。時給1,121円の人が10人、月150時間なら、それだけで月8万円強・年間約99万円のコスト増です。

制度側も後押しはしています。労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針は2023年11月に策定され、2026年1月に改正されました。労務費上昇を理由に価格交渉を申し入れることは、いまや正当な行為として国が明文化している。にもかかわらず交渉に踏み出せない会社が多いのは、勇気の問題ではありません。「どの仕事でどれだけ足りていないのか」を、自社が説明できないからです。

2.それは何を意味するか ── 交渉のテーブルに乗る資格

値上げ交渉の現場は、感情論では動きません。動くのは「この案件は人件費が◯%を占めており、時給が55円上がると原価が◯円増える。だから◯%の改定をお願いしたい」という具体の数字だけです。逆に「全体的に厳しくて」と言った瞬間、話は「うちも厳しい」で終わります。

ここで多くの会社が詰まる。全社の粗利率は決算書で分かる。しかし案件別・得意先別の粗利は誰も持っていない。だから「どの取引先に、いくらお願いすべきか」が決められない。結果、一番言いやすい相手にだけ頭を下げ、本当に赤字の取引はそのまま残ります。

値上げ交渉に必要なのは勇気ではない。案件ごとの、粗い粗利だ。

3.自社ならこう動かす ── 完璧な原価計算はいらない

ここで原価計算システムの導入を検討し始めると、だいたい半年溶けます。BEYONDでも9社で原価を見ていますが、最初にやったのは表計算ソフトで3列を埋めることだけでした。10月の発効までに間に合わせるなら、次の順番が最短です。

売上上位20件だけ、粗利を出す
全件やろうとするから終わらない。直近1年の売上上位20件(または上位20社)に絞る。多くの中小企業ではこれで売上の7〜8割が押さえられる。列は『売上/材料・外注費/かかった人の延べ時間』の3つだけ。会計システムは不要、請求書と日報から拾えます。問い:売上トップ5の案件の粗利率を、順番に言えるか
人件費は『時間×社内単価』の一律でよい
個人ごとの正確な人件費配賦は、精度は上がるが速度が死ぬ。まずは社内一律の時間単価を1つ決めて、かかった時間を掛けるだけ。単価は(年間人件費総額+法定福利費)÷(年間総稼働時間)で概算する。粗くても、案件同士の順位はほぼ正しく並びます。順位さえ正しければ、打ち手は決められる。問い:自社の1時間あたり社内コスト単価を、概算でも持っているか
並べ替えて、下位から順に交渉相手を決める
粗利率の低い順に並べる。ここで『売上は大きいのに粗利率が最下位』の案件が必ず1つか2つ見つかる。それが最初の交渉相手です。指針が示すとおり労務費の上昇は正当な交渉理由になるので、時給改定額と作業時間という具体の数字を持って申し入れる。交渉が通らない場合の判断(数量調整・仕様変更・撤退)も、同じ表の上で決められます。問い:いま一番『売上は大きいが薄い』取引先はどこか

この作業は、慣れた人が半日、初めてでも2〜3日で終わります。完璧な原価計算を1年かけて作るより、粗い粗利表を今週作るほうが、10月には確実に効く。精度は運用しながら上げればいい。順位が分かれば、経営判断はもう下せます。

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4.LENS は、交渉に使える粒度まで数字を落とす

LENS(BEYOND PLAYBOOK)は、原価管理システムを売る仕事ではありません。いまある請求書・発注書・日報から、案件別の粗利をどこまで粗く作れば交渉に使えるかを見極め、その最小構成を一緒に組むのが役割です。私たちは評論家ではなく、同じ最低賃金改定と仕入値上げを受けながら複数の実業を回している当事者。だから「そこまでの精度は要らない」「その配賦は現場が続かない」を、身をもって言えます。

まずは無料の意思決定スピード診断で、数字のどこが見えていないかを掴むところから。結果を見ながら、10月の発効までに間に合う手順を一緒に決めましょう。

※背景データは、中央最低賃金審議会が2026年7月28日に取りまとめた2026年度の引き上げ目安(全国加重平均1,176円・+55円・4.9%増/Aランク+54円、B・Cランク+56円)、帝国データバンク『全国企業倒産集計 2026年上半期報』(2026年7月8日発表/倒産5,335件、物価高倒産556件で過去最多)、内閣官房・公正取引委員会『労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針』(2023年11月策定・2026年1月改正)を参照しました。試算は前提条件により変わります。本文中の手順は、よくある状況をもとにした一般的な整理です。