従業員31名の設備工事会社。二年前に代表が交代しました。先代は会長として残り、株の大半も譲渡済みです。
新社長は四十代で、現場も数字も分かっています。それでも決裁が進みません。
理由は分かっていました。先代が毎朝八時に出社し、現場の責任者が立ち寄って相談していく。社長が知らないうちに方針が決まっていることがありました。
現場から見ると、相談先が二つあるのは便利です。通らなかったらもう一方に持っていける。
結果として起きるのは、通したい案件は先代へ、通らなくてよい案件は社長へという選別です。社長に上がってくるのは、難しい案件と、面倒な案件だけになります。
そして先代の側にも理由があります。聞かれたら答えるのが礼儀だと思っている。断るのは冷たいと感じる。だから答える。これが毎日続きます。
二年経って、新社長は『自分が決めた案件が一つも思い出せない』と言いました。
二人で決めたのは、役職の整理ではありませんでした。口を出す範囲と、出さない範囲を一枚に書くこと。
書いたのは四項目だけです。これを社内に配りました。
線を引くと、先代の役割が減ります。ここを放っておくと、別の問題が出ます。
この会社が残したのは二つでした。長い付き合いの取引先への顔つなぎと、地域の付き合い。どちらも関係が人に付いていて、すぐには移せないものです。
重要なのは、残した役割にも終わりを書いたことです。取引先の引き継ぎは三年で完了させる、と期限を入れました。期限の無い役割は、そのまま十年続きます。
半年後、現場の相談はほぼ社長に集まるようになりました。
変化として大きかったのは、社長の側ではなく先代の表情でした。線を引く前は、毎日呼ばれて答えているのに自分の立場が曖昧で、本人がいちばん落ち着かなかったそうです。
関与しないと書いてあると、答えないことが怠慢ではなくなる。これは引く側にとっても救いでした。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。代替わりの場面は何度も見てきました。
揉める会社と揉めない会社の差は、先代の人柄ではありませんでした。むしろ面倒見のいい先代のほうが、相談を断れずに決裁が二本になります。
差が出たのは、渡したあとの役割を紙に書いたかどうかでした。口約束では毎日の場面に勝てません。現場が相談に来た瞬間に、書いてあるかどうかで対応が変わります。
もう一つ。この一枚は現場のために書くものです。二人の間の取り決めだと思って共有しないと、現場は今まで通り相談に行きます。配って初めて効きます。
いま承継を考えているなら、株や税の話と同じ時期に渡したあとの一枚を作ってください。渡してから書くより、渡す前に書くほうが角が立ちません。
NORTH(BEYOND PLAYBOOK)は、承継の手続きを代行するのではありません。BEYOND Holdings 自身が実業を回す当事者として、関与しない範囲の書き出し → 相談を受ける条件の限定 → 現場への返し方の文面 → 残す役割と期限の設定までを、貴社の事情に合わせて一緒に整理します。
まずは無料の経営理念・浸透度診断で、決めたことが社内にどこまで届いているかを確かめてみてください。結果を見ながら、一枚に書く四つの線を一緒に決めましょう。
※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の年数・人数はすべて説明のための仮の数値です。役員の地位・報酬・権限に関する定めは会社法および定款にもとづく取扱いがあり、個別の判断は顧問の弁護士・税理士にご確認ください。
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