よくある場面です。値引きはしないと決めている。その決めごとがあるのに、ある案件で社長が『今回は仕方ない』と通す。
このとき表向きのルールは残っています。ところが現場に伝わるのは別のことです。値引きの可否は、社長に持っていけば決まる。
置き換わったルールは、こちらのほうが強い。実際に使えるからです。書かれたルールと、動いているルールが二本になり、現場は動いているほうを使います。
だから『決めたのに守られない』という嘆きは、順番が逆になっています。守られていないのではなく、別のものが守られている。
禁止に振ると、別の問題が出ます。現場が隠します。
中小企業の商売で、例外がゼロで回ることはありません。客先の事情、材料の都合、人の都合。認めないと決めれば、通さずに済ませる方法が探されます。
報告が消えると、どこで何回曲げたかが誰にも見えなくなります。見えない例外は、直せません。だから打ち手は、禁止でも黙認でもない三つ目になります。
一行の記録が溜まると、使い道が出てきます。多いのは、断る側の根拠としての使い方です。
同じ相手から同じ相談が来たとき、前回認めた理由が残っていれば、今回との違いを具体的に言えます。『前回はこの条件があったから通した。今回はそれが無い』。
この言い方ができると、断る理由が社長の意思から条件の話に移ります。人が断るのではなく、条件が断る形になるので、角が立ちません。
逆に記録が無いと、断る根拠は前例の記憶しかなくなります。記憶は人によって違うので、同じ案件で社内の言うことが食い違う。これが起きると、ルールの信用はもう戻りません。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。決めごとを作っては崩し、また作り直してきました。
いちばん痛かった失敗は、社長が自分で黙って例外を通した会社でした。悪意はなく、むしろ相手を助けるための判断でした。それでも、半年後には同じ決めごとが誰にも参照されなくなっていました。
ここから学んだのは、例外の是非より、宣言の有無が効くということです。例外を通した回数が多い会社でも、毎回宣言していればルールは残っていました。回数が少なくても黙って通した会社では、残っていませんでした。
もう一つ。この作法は社長自身が得をします。宣言する癖がつくと、通す前に理由を言葉にすることになる。言葉にできない例外は、その場で止まります。判断の質が、宣言という形式だけで上がるのは、やってみて意外だった点です。
次に相談が来たとき、やることは一つで足ります。通すなら、通すと言ってから通す。紙を増やす前に、ここだけ変えてみてください。
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※本記事の例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではありません。就業規則や労働条件に関わる社内規程の運用については、関係法令にもとづく取扱いがあり、個別の判断は社会保険労務士および顧問の専門家にご確認ください。本文中の手順は一般的な整理であり、成果を保証するものではありません。
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