従業員38名の内装工事業。創業から十五年、社長が二代目です。
理念は三年目に社長が自分で書きました。『地域の住まいを、長く守る』。当時は個人宅の改修が売上の八割でした。
いまは店舗と事務所の工事が六割を超えています。住まいという言葉が、仕事の中身と合っていません。
社員からも言われていました。朝礼で読む言葉と、その日向かう現場が違う。読み上げる時間が、形だけになっていた。
それでも二年、変えられませんでした。
社長の説明はこうでした。社員が混乱する。
ところが聞き取りをすると、混乱を心配していたのは社長だけでした。社員の反応は『むしろ変えてほしい』が多かった。
止めていたのは別のことでした。自分で書いたものを自分で変えるのは、間違っていたと認めることに見える。
先代が作った言葉なら、時代が変わったという説明ができます。自分が十二年前に書いたものだと、その説明が使えません。
ここで気づいたのは、変える理由を一回ごとに説明しようとしていることでした。だから毎回、自己批判の形になる。
順番を変えました。新しい言葉を考えるのを一度やめて、どういうときに理念を見直すかを先に書くことにした。
理由は単純です。手続きがあれば、変更は手続きの実行になる。判断の否定ではなくなります。
書いたのは紙一枚です。四つのことだけを決めました。
手続きを書いた後、言葉の検討に入りました。ここで最初にやったのは、変えない一点を決めることでした。
この会社が選んだのは『長く守る』の部分でした。対象が住まいから建物全般に広がっても、一度やった仕事を見続ける姿勢は変えない。
変えない一点があると、社員への説明が短くなります。変えたのは対象、変えていないのは姿勢。一文で済みます。
逆に全部を変えると、何を信じればいいかわからなくなります。混乱が起きるのは変えたときではなく、全部変えたときです。
なお、理念の言葉を変えるのに法令上の手続はありませんが、定款の目的や就業規則、社外に公表している表示と連動して書き換える場合は、それぞれに定めがあります。この会社は社外向けの表記だけを先に直し、他は専門家に確認してから進めました。
半年後、新しい理念は朝礼で読まれています。社員の反応は、特別なものではありませんでした。
社長が意外だと言ったのは別のことでした。手続きを書いた紙のほうが、社内で話題になった。
理念は見直せるものだ、という前提が共有されたことで、他のことも言いやすくなった。評価の基準、朝礼の形、現場のルール。
変えられないものとして置かれていた一番上のものが動いたので、下のものも動かせると伝わったのだと思われます。
そして次の見直しは三年後です。日付が決まっているので、それまでは迷いません。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。自分たちで書いた言葉を、自分たちで直してきました。
何度やってもわかるのは、変えにくさの正体が社員ではなく自分だということです。社員が混乱すると言っているとき、たいてい混乱しているのは書いた本人です。
効いたのは、手続きを先に書くことでした。変更が制度の実行になると、人格の話から離れます。
もう一つ。迷った場面の記録を取り始めたことが、思った以上に効きました。理念が使えていないという感覚は、記録がないと言葉にできません。記録があると、どの場面でどの言葉が足りないかが出ます。
逆にやって失敗したのは、社員全員で新しい言葉を考える会をやったことでした。出てきたのは平均的で、誰も反対しない言葉でした。言葉は社長が書き、手続きと材料を全員で持つ。この分け方のほうが機能しました。
いま理念が合っていないと感じているなら、最初に一つだけやってください。自社の理念は誰がどうやって変えられることになっているか、を確かめる。決まっていないなら、言葉の前にそれを決めるほうが先です。
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※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の年数・人数・回数はすべて説明のための仮の数値です。経営理念そのものは法令上の定めがある事項ではありませんが、定款の目的、就業規則、評価制度、社外に公表している表示などと連動して記載を変更する場合には、それぞれに手続および法令上の定めがあります。変更の範囲によっては司法書士・社会保険労務士・顧問弁護士への確認が必要です。
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