従業員19名の設備工事業。二か月追っていた案件で、三回目の打ち合わせでした。
話が条件の詰めに入ったところで、担当者がこう言いました。実は◯◯さんからも見積をもらっていて。
社長は反射的に答えました。あの会社は施工後の対応が薄い、工期を守らないことがある、うちはそこが違う。
担当者は頷いていました。その場の空気は、むしろ良くなりました。社長は手応えを感じて帰りました。
二週間後、他社に決まったという連絡が来ました。
断りの連絡をくれた担当者に、価格以外で何が決め手だったかを聞きました。
返ってきたのは、こうでした。社内で◯◯さんを推している人がいて、その人に説明する材料が要った。
つまり担当者は、他社と比べたかったのではありません。社内の推薦者に対して、こちらを選ぶ理由を作りたかった。
そこで社長が出したのは、他社の弱点でした。社内の推薦者を否定する材料です。担当者はそれを社内で使えません。使えば、推薦者と喧嘩になります。
必要だったのは、推薦者の顔を立てたまま、こちらを選べる理由でした。
振り返って整理すると、他社名が出る場面は三つに分かれます。
一つめ、値段を下げてほしい。いちばん分かりやすい。この場合は金額の話がすぐ続きます。
二つめ、社内で説明に困っている。この事例がこれでした。言い方は一つめと似ていますが、金額の話は続きません。
三つめ、本当に迷っている。判断材料が足りていない。この場合、違いを聞かれます。
どれなのかを確かめずに答えると、三つのうち二つで外します。他社の弱点を話すのは、三つめのときだけ有効で、それも限定的です。
もう一つ分かったことがあります。他社名を出しただけで、実際には見積を取っていない場合がある。
理由は二つです。条件を良くするための一言として言っている場合と、これから取ろうとしている場合。
どちらかは、聞き返したときの答えで分かります。具体的な項目や金額が出てこなければ、まだ比べていません。
この場合にやることは、比べられる前に判断を進めてもらうことです。期限を決める、着手の日を仮で置く。
ここで慌てて値段を下げると、比べていない相手に対して自分から下げたことになります。いちばん損な動きです。
その後の三件で、聞き返す型を使いました。内訳は、値段が一件、社内の説明が一件、本当に迷っているが一件でした。
三つとも違う対応になり、二件受注しました。失注した一件は値段の案件で、動かせる条件がありませんでした。
社長が成果だと言ったのは、受注の数ではありませんでした。失注した理由が、はっきり分かったことです。
それまでは全部が『価格で負けた』になっていました。聞き返す型を使うと、負けた理由が三つに分かれる。
分かれると、打ち手が決まります。社内の説明で負けているなら比較表を作る、軸で負けているなら資料を直す。価格で負けたという結論からは、値下げ以外の打ち手が出てきません。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。売る側も、発注する側も社内にあります。
発注する側に立ってわかったのは、他社名を出すのは、たいてい社内の事情だということでした。本当に比べているときは、名前ではなく条件を聞きます。
そして他社の弱点を話す業者からは、買いにくい。理由は単純で、こちらが別の会社と話すときに同じことをされると想像がつくからです。
売る側としてやった失敗は、他社の評価を先に口にしたことでした。褒めても下げても、その後の話が相手の土俵になります。
いま効いているのは、聞き返す一言だけです。どのあたりを比べておられますか。この一言で、会話の主導が戻ります。
なお、他社の品質や取引条件について事実と異なる内容を告げる行為には関係法令上の定めがあります。否定しないのは作法の話であると同時に、確認が要る領域だからでもあります。
いま他社名が出る商談があるなら、最初に一つだけやってください。直近の失注三件が、三つのどれだったかを分けてみる。全部が価格に見えていたなら、まだ理由を聞いていません。
SURGE(BEYOND PLAYBOOK)は、話術を外から持ち込むのではありません。BEYOND Holdings 自身が売る側と発注する側の両方を回す当事者として、他社名が出た理由の分類 → 聞き返す一言の統一 → 項目だけの比較表の作成 → 失注理由の記録までを、貴社の商売の形に合わせて一緒に整理します。
まずは無料の売上診断で、いま売上のどこに漏れがあるかを確かめてみてください。結果を見ながら、どの商談から型を試すかを一緒に決めましょう。
※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の件数・金額・期間はすべて説明のための仮の数値です。競合他社の品質、価格、取引条件に関する言及については、事実と異なる内容を告げる行為や取引先を不当に誘引する行為に関係法令上の定めがあります。競合に関する情報の収集および同業他社との価格や条件に関する情報交換についても独占禁止法上の定めがあります。商談での説明の内容および営業資料の整備については顧問弁護士にご確認ください。