従業員22名の部品加工業。新規の取引先で、月に二百万円ほどの継続案件でした。
話は三回の打ち合わせで決まりました。単価も、数量も、納期も合意済み。
最後の打ち合わせで出てきたのが、翌月末締め、翌々月末払いと書かれた紙でした。
社長は一瞬止まりましたが、受けました。ここまで来て条件で揉めると、三回分が無駄になると思ったからです。
これは心理的には自然な判断です。積み上げた時間が、判断を縛ります。
二か月後、資金繰りを見ていて気づきました。入金が想定より遅い。
既存の取引先の多くは、当月末締め翌月末払いでした。新しい取引先は一か月ぶん遅い。
計算してみました。月二百万円の取引で、入金が約三十日遅れる。常に二百万円が余分に寝ている状態になります。
借入の金利が年二パーセント台だとすると、二百万円を一年借りる費用は数万円です。金額としては大きくない。
社長が引っかかったのは、金額ではありませんでした。この一行を、交渉もせずに受けたことでした。
そして気づいたのは、聞かれなかったから出てこなかったのではないことです。相手は最後に出す運用にしていました。
交渉して分かることですが、担当者が条件を動かせないことがよくあります。
理由は三つです。経理の仕組みが締め日で固定されている、全取引先に同じ条件を適用している、親会社の規定。
この場合に押し込むと、関係が悪くなるだけで条件は変わりません。変えられない相手を見分けるほうが早い。
見分け方は一つです。他の取引先も同じ条件ですか、と聞く。全社同じと答えたら、そこは動きません。
動かないと分かったら、三つの代わりに移ります。サイトを変えずに、資金の拘束を減らす方向に切り替える。
なお、支払期日に関する定めは取引の種類と当事者の区分によって法令の適用が異なり、手形による支払いの扱いにも定めがあります。自社の取引が対象になるかは、確認しておく価値があります。知っていると、交渉の前提が変わります。
半年の間に新規の引き合いが四件ありました。四件すべてで、見積の前に支払条件を聞いています。
結果は分かれました。二件は既存と同じ条件、一件は一か月長く、一件は条件が合わず断りました。
断った一件は、サイトが長いうえに粗利率も低い案件でした。先に聞いていたので、見積を作る前に判断できました。
社長が成果だと言ったのはここでした。見積を作る時間が、三件分浮いた。
そして一か月長い条件を受けた一件では、着手金を三割もらう形にしています。相手の支払サイクルは変えていません。
私たちBEYONDは、外から助言するコンサルではなく、中小企業同士が連合して複数の実業を自分たちで回している当事者です。支払う側にも、受ける側にもいます。
支払う側に立って分かったのは、条件を最後に出すのは意図的ではないことが多いという点でした。経理の話なので、営業の担当者は後回しにします。
そして先に聞いてくる相手には、普通に答えます。隠しているわけではありません。聞かれなければ最後になるだけです。
受ける側としてやった失敗は、まさにこの事例と同じでした。三回の打ち合わせの後では、条件の話を持ち出せませんでした。
いま効いているのは、換算を一度やったことです。三十日の差が、月商一か月分の資金が寝ることだと金額で分かった。分かってからは、聞くことに躊躇がなくなりました。
もう一つ。断った案件があることが、社内で効きました。条件で断れると分かると、営業の側も条件を先に確かめるようになります。
いま新規の引き合いがあるなら、最初に一つだけやってください。見積を出す前に、締めと支払のサイクルを聞く。一文で済みます。
SURGE(BEYOND PLAYBOOK)は、交渉の台本を外から渡すのではありません。BEYOND Holdings 自身が支払う側と受ける側の両方に立つ当事者として、見積前に聞く一文の設計 → サイトの差の金額換算 → 粗利率ごとの受入上限 → 代わりの三つの用意までを、貴社の商売の形に合わせて一緒に整理します。
まずは無料の売上診断で、いま売上のどこに漏れがあるかを確かめてみてください。結果を見ながら、どの取引から条件を見直すかを一緒に決めましょう。
※本記事の事例は、中小企業で起こりうる場面を想定して構成したものです。特定の企業の実例ではなく、記載の金額・日数・利率はすべて説明のための仮の数値です。本文の換算は資金の拘束期間を金額の感覚に置き換えるための簡便な計算であり、会計上の処理や税務上の取扱いを示すものではありません。支払期日に関する定めは、取引の種類および当事者の区分によって中小受託取引適正化法その他の法令の適用が異なり、手形による支払いの扱いにも定めがあります。自社の取引が法令の対象となるかの判断、および契約条項の内容については顧問弁護士および顧問税理士にご確認ください。